不可知論

不可知論 (Agnosticism)

概要

不可知論は、「物事の本質について知ることはできない」とする哲学的立場です。この見解は、我々が経験や感覚を通じて得られる情報を超えた事柄についての認識を拒否します。特に近代の哲学においては、現象を越え、感覚の枠を超えた存在については知識を持ち得ないとされています。

この「不可知論」という表現は、トマス・ヘンリー・ハクスリーによって1868年または1869年に提唱されました。また、R.H.ハットンの手紙によると、ハクスリーは1869年のある晩、Metaphysical Societyが形成される前に特定の集まりでこの語を使ったとされています。この語は、聖パウロの『使徒言行録』に登場する「知られざる神」の祭壇に由来しています。

不可知論は、カントの「物自体は不可知である」という考え方からも影響を受けています。そして、この立場では本質的な存在や事物の根源についての認識は難しいと主張されます。懐疑主義や現象学、実証主義などの哲学的立場が、この不可知論的視点を形成する一因です。

不可知論の種類

不可知論にはいくつかのタイプがあります。その一つは、存在を絶対的なものとし、言葉以上の認識を否定する立場です。また、認識の不可能性を認めつつも、何らかの本質的存在を想定することを許容する立場も存在します。宗教的な文脈では、「神は『いる』とも、『いない』とも言えない」という中立的不可知論があります。このような立場は、政治的な背景から無神論を表明しづらい場合にも言及されることがあり、これに対しては批判的な声もあります。

歴史的背景

不可知論の考えは古代ギリシャの哲学者ピュロンにまで遡ることができます。また、古代インドのサンジャヤ・ベーラッティプッタも不可知論の立場を示す重要な人物です。仏教の開祖である釈迦は神の存在について明確な立場を示さなかったものの、教えが分派する中で絶対的存在の概念が形成される要因ともなりました。

古代中国では孔子が「怪力乱神を語らず」という立場で、やはり不可知論の一派として理解されることがあります。中世ヨーロッパでは、グノーシス派が神の本体を直接知ることができると主張する一方、ローマ・カトリックは神の本体が認識不可能であるとしたため、不可知論的見地が強調されました。近代以降、ヒュームやカントの思想を通じて不可知論は再び注目を浴びました。

人口統計

不可知論者は、無神論者やその他無宗教者としばしば同じカテゴリーに分類されます。2010年の調査によると、不可知論者や無宗教者は世界人口の約9.6%を占めています。アメリカでは不可知論者が全体の14%を占め、一方、イギリスやスペインではその割合がさらに高くなります。

また、ピュー・リサーチ・センターの調査によると、全世界で約16%が不可知論者や無宗教者であることがわかっています。オーストラリアの調査によれば、38.9%が無宗教という結果が出ており、日本やベトナムでも同様の傾向が見られます。このように不可知論は、さまざまな文化に広がり、現代の思想と宗教観に影響を与え続けています。

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