世界システム論

世界システム論：近代世界システムとグローバルな分業体制

イマニュエル・ウォーラステインが提唱した世界システム論は、近代世界の歴史を、個別国家ではなく、広範な「世界システム」という視点から捉え直す革新的な理論です。世界を単一経済圏と見なし、その中で展開する国際的分業体制を分析することで、歴史的な不平等や発展のメカニズムを解き明かそうとする試みです。

世界システムの概要

世界システムとは、複数の文化体（帝国、都市国家など）が複雑に絡み合い、広大な領域にわたる分業体制を形成した歴史的システムです。必ずしも地球全土を包含する必要はなく、一つの国家や民族の枠組みを超える規模を持つことを特徴としています。コロンブスによるアメリカ大陸「発見」以前にも存在しており、世界経済と世界帝国の二つの形態をとってきました。

重要なのは、16世紀以降に成立した「近代世界システム」です。これは世界帝国とは異なり、政治的には分裂したまま存続し、資本主義の発展によって持続性を保ってきました。多数の政治システムが共存することで、経済的余剰を巨大な官僚機構や軍事費に浪費することなく、システム全体の成長に充てることができたためです。また、経済的要因の影響範囲が個々の国家の支配範囲を超えることで、政治的制約を受けずに世界経済は発展しました。

ウォーラステインが定義する「資本主義」は、必ずしも自由意志に基づく労働契約を必要としません。システム全体が中心諸国向けの生産を基盤としていれば、どのような生産形態であっても「資本主義的」とみなされます。中心、半周辺、周辺という三つの地域構造によって、それぞれの役割と生産形態が異なる国際分業体制が構築されているのも特徴です。

近代世界システムでは、経済的利潤は中心地域に集中する一方、統一的な政治機構が存在しないため、その不均衡を是正する仕組みは脆弱です。そのため、地域間の格差は拡大し続ける傾向にあります。単線的発展段階論とは異なり、周辺地域は中心部に対する一次産品供給地として固定化され、「低開発」状態が継続するという問題点が指摘されています。

重要概念

世界システム、世界経済、世界帝国、近代世界システム

世界システム: 分業体制に組み込まれた広大な領域。国などの政治単位を超える規模を持つため「世界」システムと呼ばれる。世界経済と世界帝国に分類される。
世界経済: 政治的統合を伴わない世界システム。近代世界システム以外の世界経済は世界帝国へ変化するか、早期に消滅した。
世界帝国: 政治的に統合された世界システム。官僚制度や軍事費によって崩壊した。
近代世界システム: 世界帝国化も消滅もしない特異な世界システム。16世紀以来拡大し、現在地球上に唯一存在するシステム。

ヘゲモニー（覇権）

世界システムにおいて、ある中心国家が生産、流通、金融の全てにおいて他の中心国家を圧倒している状態。ウォーラステインによれば、オランダ、イギリス、アメリカの順で推移したとされる。ヘゲモニーは生産、流通、金融の順に確立され、失われる際も同様の順序をたどる。

世界システム論の応用と批判

世界システム論から見たソ連

冷戦時代、世界システム論は「世界経済の一体性」を強調し、ソ連をアメリカ合衆国と政治的には敵対するものの、世界経済の安定化に機能していたと論じました。

日本での受容

日本においては、1981年に川北稔による『近代世界システム』の翻訳を契機に、世界システム論が紹介されました。特にバブル経済期には、「次のヘゲモニー国家は日本」といった言説も生まれました。

批判

世界システム論は西洋中心主義的であるという批判や、経済以外の要因を軽視しているという批判があります。アンドレ・グンダー・フランクは、世界経済の中心はアジアにあったと主張し、ウォーラステインと論争を展開しました。また、未完の理論であるという指摘もあります。

結論

世界システム論は、歴史をグローバルな視点から捉え、現代社会の構造を理解する上で重要な視座を提供しています。しかし、その前提や解釈には様々な批判があり、今後の発展が期待されています。歴史、経済、社会学など多様な分野の研究者による継続的な議論を通して、世界システム論はより洗練された理論へと進化していくでしょう。

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