世阿彌 (戯曲)

舞台の背後に潜む人間ドラマ

『世阿彌』は、1963年に山崎正和によって書かれた戯曲で、同年9月に俳優座にて初演されました。物語は、時の権力者足利義満のもとで能楽の世界に身を置く世阿弥を中心に展開されます。この作品は、世阿弥の生涯を通じて、政治と芸能の関わり、さらにはそれに伴う心の葛藤を浮き彫りにすることを目指しています。

物語の核

世阿弥は、足利義満の下で能の技術を磨き、その制度を確立するために生き抜きます。作品は、彼がどのようにして能楽を大成させていったのか、そしてその過程で直面した数多くの困難や対立を描写しています。彼が直面するのは、ただの芸術的な挑戦だけでなく、時の権力者との関わりによる社会的圧力です。その結果、彼は自身の芸術と人間としての存在意義、さらには名声の影に潜む懐疑に対して思索せざるを得なくなります。

評価と影響

『世阿彌』は、発表当初から非常に高い評価を受けており、第9回「新劇」岸田戯曲賞を受賞しました。この作品は、山崎正和の初期の代表作と見なされており、彼の文筆活動の出発点ともされています。彼に対して批判的な意見を持つ人々も、本作については一定の評価を与えています。一方で、作家の松岡正剛は、日本文化を小説化することの難しさを語る中で、本作に言及し、内容について厳しい見解を示しています。

上演と受容

『世阿弥』は、1963年の初演以降、国内外で様々な形で上演されてきました。1966年にはオフ・オフ・ブロードウェイで、1971年にはイタリアのフィレンツェ五月音楽祭で、そして1987年には新劇団協議会による上演が行われました。1988年には、日米舞台芸術交流事業の一環としてアメリカでの公演も実現し、現代演劇協会の主導で松本幸四郎が主演しました。最も最近では、2003年に新国立劇場で上演され、坂東三津五郎が主演を務めました。

文献としての価値

本戯曲はその後も数度にわたり出版されており、初出は1963年の『文藝』誌です。その後、河出書房新社から1964年に単行本化され、さらに新潮文庫や山崎正和の著作集にも収録されています。近年では、2016年に河出書房新社から全戯曲集として振り返られることになります。

このように、『世阿弥』は日本の戯曲の中で一際大きな存在感を放ち続けており、芸術と権力、そして人間の内面的葛藤を深く考察する重要な作品となっています。

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