中世 (小説)

中世

『中世』は、著者三島由紀夫による短編小説で、15世紀の日本の室町時代を舞台に、悲しみと美を織り交ぜた物語が展開されます。物語は、足利義尚の死とその父、足利義政の深い悲しみを中心に描かれ、その痛みが美少年菊若との関わりを通して浮き彫りにされていきます。

登場人物の背景

足利義尚は、25歳という若さで戦場にて亡くなり、その死は父である義政にとって耐え難いものでした。義政は、心の傷を癒すことができず、ある日偶然に大亀を家で飼い始めます。苔むしたその亀は、義政の心の支えとなり、彼の孤独な日々にゆとりを与えます。一方、菊若は義尚に愛される美少年で、義尚の死後、彼の霊を追いかける存在として描かれています。

物語の流れ

物語は、義尚の突然の死から始まり、彼の霊を呼び寄せるさまざまな儀式や、菊若との深い関係を描きます。義政は菊若への思慕の念を強める一方、菊若は霊海禅師の教えを受け、義尚の霊を慰めるための努力を重ねます。義政は夜空の星々や、自らの心の内面に葛藤し、やがて義尚の霊との再会を願うことで自身の死生観を問い直していきます。

美と悲しみの交錯

物語の中で三島は、言葉の美しさと絶望感を共存させ、衆道的なモチーフを巧みに取り入れています。彼の作品には、精霊と現世の交わり、そしてさまざまな人間関係から生まれる悲しみが反映され、感情の奔流が描かれます。義政の心は、亡き息子を思うあまり、徹底的に神秘的な世界へと引き込まれ、心の闇に没入していく様が際立っています。

作品の発表と評価

『中世』は、1945年に雑誌『文藝世紀』に掲載され、戦後日本文学界で注目を浴びるようになります。同じころ、著名な作家川端康成にその内容を高く評価されることが、三島にとって大きな後押しとなり、川端との友情の始まりとなります。物語の中には、彼の美学の萌芽が見え隠れし、戦争という背景が彼の創作活動に影響を与えています。

影響と考察

三島由紀夫は、中世文学に魅了され、特に能楽の影響を受けたと言われています。彼が描く『中世』の世界は、ただの物語に留まらず、深い哲学的な問いや人間の感情を反映しています。また彼自身、初期作品を振り返った際にその時代の熱意と恥じらいの感情を表現し、何かに恋焦がれるような気持ちを語っています。

結論

『中世』は、三島由紀夫の文体の魅力を十分に表現した作品であり、彼の文学的志向とも深く結びついた重要な作品です。その中での人間の苦悩や美の探求は、今なお多くの読者に感動を与え続けています。彼の独特な視点は、時代を超えて現代に生きる私たちにも響くものがあると言えるでしょう。

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