中村好文

中村好文（なかむら よしふみ）は、1948年に千葉県九十九里町で生まれました。日本の建築界において、住まいを深く掘り下げた設計で知られる建築家です。

武蔵野美術大学建築学科を卒業した中村氏は、学生時代に無重力空間の住宅というユニークな卒業設計を手がけましたが、必ずしも高い評価は得られなかったといいます。その後、小さな設計事務所で実務経験を積んだ後、数年で退職。キャリアの方向性を模索する中で、家具製作への関心を深め、都立品川職業訓練校の木工科で学び直しました。

この木工での経験は、彼の建築家としての基盤に大きな影響を与えます。特に、1976年から1980年までの約4年間、日本を代表する建築家である吉村順三氏の事務所に勤務し、吉村氏の家具製作アシスタントを務めたことは、彼の建築観やものづくりに対する姿勢を形成する上で貴重な時間となりました。吉村氏のもとで学んだ、素材への敬意や細部へのこだわりは、独立後の活動にも色濃く反映されています。

1981年、中村氏は自身の設計事務所「レミングハウス」を設立し、独立します。以来、一貫して住宅建築を中心に活動を展開。クライアントの暮らしに寄り添った、シンプルでありながらも豊かな空間を生み出すことを追求してきました。また、建築と並行して家具のデザイン・製作も続けており、住まい全体の質を高めることに貢献しています。

その設計手腕は高く評価されており、1993年には「一連の住宅作品」が認められ、第18回吉田五十八賞特別賞を受賞しました。これは、数々の優れた住宅を手がけてきた功績に対するものです。初期の代表作の一つである「三谷さんの家」は、第1回吉岡賞に輝いています。また、中村氏が敬愛する伊丹十三氏のエッセイに触発され、2007年に開館した伊丹十三記念館の設計を担当したことでも知られています。この記念館は、伊丹氏の世界観を見事に建築で表現した作品として評価されています。

中村氏の活動は建築設計に留まりません。彼は優れたエッセイストとしても知られており、建物を訪ね、その空間や歴史、背景を独自の視点と温かい筆致で綴った著作を多数発表しています。「住宅巡礼」シリーズや「意中の建築」といった著書は、建築の専門家だけでなく、広く一般の人々に建築の魅力や楽しさを伝えています。その執筆活動は20年以上にもわたり、建築を「つくる」だけでなく、「書く」ことでも建築の可能性を広げています。

教育者としても後進の育成に力を入れており、日本大学生産工学部建築工学科や多摩美術大学美術学部環境デザイン学科で教鞭を執っています。

中村好文氏は、住まいという身近な空間を通じて、人々の暮らしの豊かさを追求し続ける建築家であり、同時に、多角的な視点から建築の魅力を伝え続ける書き手でもあります。その実直で誠実な仕事ぶりは、多くの人々に共感と支持を得ています。

もう一度検索