中村座

中村座：江戸歌舞伎を彩った名劇場

中村座は、江戸時代の歌舞伎劇場として名を馳せ、江戸三座の一つに数えられました。その歴史は、初代中村勘三郎が寛永元年（1624年）、京橋付近に創設した猿若座にまで遡ります。これは、江戸歌舞伎の始まりを告げる重要な出来事でした。その後、中村座と改称され、幾度かの移転を経て、江戸の人々の娯楽の中心地として発展を遂げました。

当初、現在の京橋付近に創設された中村座でしたが、寛永9年（1632年）には、江戸城に近いという理由で日本橋堀留町へ、慶安4年（1651年）には日本橋人形町へと移転しました。移転の度に、劇場の規模や設備も拡張され、より多くの観客を迎え入れることができるようになりました。

しかし、中村座の歴史は順風満帆ではありませんでした。天保12年（1841年）10月7日、大火により劇場は焼失。この火災は、同じ葺屋町にあった市村座にも被害を及ぼしました。その後、天保の改革に伴い、浅草聖天町へ移転を余儀なくされました。この地には、歌舞伎劇場を含む5つの芝居小屋が集められ、初代勘三郎の名に因んで猿若町と命名されたのです。

浅草聖天町への移転後も、中村座は盛況を続けましたが、明治8年（1873年）、十三代目中村勘三郎の引退と負債により、座は人手に渡りました。さらに、明治17年（1884年）11月には浅草西鳥越町へ移転し、再び猿若座と改称されますが、明治26年（1893年）1月の火災で焼失。その後は再建されることなく、幕を閉じました。

中村座の独特の定式幕は、左から「黒」「白」「柿色」の引き幕でした。特に「白」は、中村座だけに幕府から特別に許された色で、劇場の風格を際立たせていました。現在でも、十八代目中村勘三郎の襲名興行や平成中村座の公演などで、この伝統的な定式幕が使用され、往時の面影を伝えています。江戸東京博物館には、中村座の正面部分が原寸大で復元され、当時の様子を偲ぶことができます。

鼠小僧次郎吉との意外な繋がり

歌舞伎の演目として有名な鼠小僧次郎吉は、実在の人物でした。その生い立ちには、中村座との意外な関わりがあります。次郎吉は、堺町時代の中村座に出入りする便利屋の息子だったと伝えられています。彼の自白調書とされる「鼠賊白状記」には、幼少期から木工職人や鳶職として働き、様々な場所で生活していた様子が記されています。

河竹黙阿弥作の『鼠小紋東君新形』は、次郎吉をモデルにした作品で、中村座でも上演され、五代目尾上菊五郎が次郎吉を演じた記録が残っています。この演目は、後に『鼠小紋菊重扇染』と改題され、改めて上演されました。次郎吉の物語は、中村座の歴史と、江戸時代の庶民生活の一端を垣間見せてくれます。

平成中村座：伝統の継承

十八代目中村勘三郎は、江戸歌舞伎の伝統を復活させるため、仮設劇場「平成中村座」を旗揚げしました。これは、中村座という名前に込められた伝統と、歌舞伎への深い愛情の表れです。平成中村座は、中村座の精神を受け継ぎ、現代に江戸歌舞伎を伝える重要な役割を担っています。中村座の歴史は、単なる劇場の歴史にとどまらず、江戸時代の文化、人々の生活、そして歌舞伎という芸能の変遷を物語る重要なものです。 その歴史と伝統は、現代に受け継がれ、これからも人々に感動を与え続けるでしょう。

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