鼠小僧

鼠小僧次郎吉：義賊伝説の虚実と多様な表現

鼠小僧次郎吉（ねずみこぞう じろきち、1797年-1832年）は、江戸時代後期を代表する盗賊として知られています。大名屋敷のみをねらい、人を傷つけることはなかったため、後世、義賊として伝説化されました。

波乱に満ちた生涯

次郎吉は、歌舞伎小屋で働く男の息子として生まれました。鳶職に就いたものの、不行跡により父親から勘当され、賭博で身を持ち崩し、資金を得るため盗みを始めます。文政8年（1825年）、土浦藩上屋敷に忍び込んだ際に一度捕まり、入墨の上で追放されました。しかし、懲りることなく盗みを続け、天保3年（1832年）、上野国小幡藩屋敷で再び捕縛されます。

尋問に対し、次郎吉は10年間に95箇所の屋敷に839回忍び込み、3000両余りを盗んだと供述しました。しかし、記憶違いや記録の食い違いもあり、正確な金額は不明です。3ヶ月後の8月19日、市中引き回しの上、獄門の刑に処せられました。処刑は小塚原刑場で執行されました。

興味深いのは、次郎吉が勘当されていたため連座制の対象外となり、また、捕まる前に妻や妾と離縁していたため、天涯孤独の身で刑に処せられた点です。この点が、彼を義賊として評価する要因の一つとなっています。現在も、両国の回向院などに次郎吉の墓と伝えられるものがあります。

義賊伝説：虚像と実像

次郎吉には、「貧しい者に金を分け与えた」という義賊伝説があります。捕縛後の家宅捜索で盗品がほとんど発見されなかったことが、この伝説の根拠となっています。しかし、彼の自白書などにはそのような記述はなく、作家矢田挿雲は、盗んだ金は主に私的な贅沢に使われたと指摘しています。

大名屋敷を専門に狙った理由についても、次郎吉自身は、警備が手薄で逃げやすいからだと説明しています。江戸学者三田村鳶魚は、彼の人物像に疑問を呈し、単に都合の良い場所を選んだだけだと分析しています。

一方で、次郎吉が義賊として民衆に受け入れられたという事実は、大名に対する民衆の潜在的不満や正義感を反映していると言えるでしょう。歴史学者南塚信吾は、この点を指摘しています。

多様な創作における鼠小僧

次郎吉は、歌舞伎、落語、小説、映画、テレビドラマ、漫画、アニメ、ゲームなど、様々な創作物に取り上げられています。これらの作品では、義賊としてのイメージが強調される一方で、彼の実像とは異なる描写も存在します。例えば、「女ねずみ小僧」が登場する作品もあります。これらの創作物は、次郎吉という人物像を多角的に捉え、時代や表現者の視点によって変化していく様子を反映しています。

まとめ

鼠小僧次郎吉は、歴史的事実と伝説が複雑に絡み合った、魅力的な人物です。彼の生涯と義賊伝説、そして数多くの創作作品を通して、江戸時代の社会構造や民衆の意識、創作活動の多様性など、様々な側面を考察することが可能です。 彼の存在は、現代においても、私たちに多くの示唆を与えてくれるでしょう。

もう一度検索