中村洪介

中村洪介は、1930年9月20日に東京で生まれ、2001年2月25日に生涯を閉じた、日本の音楽評論家、近代日本洋楽史家、そして物理学者です。

東京大学大学院理学研究科物理学専攻博士課程を1961年に満期退学した後、1965年には「重イオン核反応において射出されるα粒子の角度分布並びにエネルギー分布に関する考察」というテーマで理学博士号を取得しました。その後、1965年から1967年までカリフォルニア大学で研究を行い、1968年から1970年まではブリュッセル自由大学の研究員として海外で活躍しました。帰国後は、筑波大学理学系の助教授、教授を歴任し、1993年に定年退職。その後は中央大学の教授を務めましたが、定年を迎える直前に肝不全のため亡くなりました。

物理学者としての経歴を持つ一方で、中村洪介は音楽評論家としても著名であり、特に近代日本における西洋音楽の受容史に関する研究で大きな貢献をしました。彼の評論は、音楽の歴史的背景や文化的意味合いを深く掘り下げ、多くの読者に深い洞察を与えました。

1988年には、『西洋の音、日本の耳』で芸術選奨文部大臣賞を受賞しました。この著作は、近代日本文学と西洋音楽の関係を論じたもので、日本における西洋音楽の受容の歴史を多角的に考察した画期的な作品として評価されています。

主な著書には、以下のものがあります。

『西洋の音、日本の耳 近代日本文学と西洋音楽』（春秋社、1987年）
『近代日本洋楽史序説』（林淑姫監修、東京書籍、2003年）

また、共編著として以下のものがあります。

『日本のオーケストラ 1983-1985』（小川昂共編著、日本交響楽振興財団・音楽之友社、1988年）

翻訳書には、以下のものがあります。

『偉大な指揮者たち 指揮の歴史と系譜』（ハロルド・C.ショーンバーグ著、音楽之友社、1980年）
* 『ローゼンストック回想録 音楽はわが生命』（ジョセフ・ローゼンストック著、日本放送出版協会、1980年）

これらの著作や翻訳を通じて、中村洪介は、西洋音楽の歴史や文化を日本に紹介し、日本の音楽文化の発展に寄与しました。物理学者としての知性と、音楽に対する深い愛情を兼ね備えた人物として、多くの人々に記憶されています。

彼の業績は、単に音楽評論の分野に留まらず、学際的な視点から文化史を考察する上で重要な意味を持ち、現在も多くの研究者や音楽愛好家によって参照されています。

もう一度検索