小川昂

小川昂：日本のミュージック・ライブラリアン

小川昂（おがわたかし、1912年 3月1日 - 2008年4月14日）は、日本のミュージック・ライブラリアン（音楽司書）の先駆者として知られています。彼は長年にわたりNHK資料室でレコードや楽譜などの音楽資料の整理に携わり、その功績は音楽関係の多様なレファレンスブックの刊行に結実しました。また、後進の育成にも力を注ぎ、日本の音楽文化の発展に大きく貢献しました。

生涯

1912年、東京に生まれた小川昂は、10歳の時に父の転勤で京都へ移り住みます。几帳面な性格で整理好きだった父親は役人であり、また管楽器を演奏する趣味も持っていました。小川自身は中学時代からチェロを学び、東京音楽学校への進学を志しましたが、父親の許可が得られず断念。京都帝国大学農学部図書室に就職し、上司や先輩から仕事の基礎を学びました。京大オーケストラに参加する一方で、青年図書館連盟の集会で間宮不二雄に才能を見出され、京大委託学生として文部省図書館講習所で学びました。

この経験がきっかけとなり、小川は長野県立長野図書館の司書としてキャリアをスタートさせます。この頃、NHK洋楽課長の太田太郎が欧米の音楽施設を視察し、音楽ライブラリーの創設を計画。音楽好きの司書である小川に白羽の矢が立ちました。

1939年、小川はNHKに入局し、新交響楽団機関誌『音楽雑誌フィルハーモニー』の主要記事索引を編集。1940年には同誌の付録として刊行しました。また、アメリカの『Library Journal』などの文献を参考に、音楽資料の整理方法を研究し、カード目録を楽譜やレコードの整理に取り入れました。戦後、1950年に図書館法が制定されると、視聴覚資料の整理に関する問い合わせが相次ぎ、音楽之友社の堀内敬三の協力を得て、『レコードはいかに整理するか』を出版。NHK内部では『NHK音楽資料通信』で「目録教室」を連載し、LC（米国議会図書館）の記述目録規則などを紹介しました。

LPレコードが普及し、NHKで扱う音楽作品が増大すると、楽曲管理のために「外国楽曲の呼び方」のレファレンスブックを充実させました。これは後に『洋楽索引』として結実します。1940年頃から小川は、明治以降の日本における西洋音楽に関する文献目録作成にも取り組みました。多くの知己の協力を得て、上野の帝国図書館の書庫、音楽之友社、神保町の古賀書店などを訪れ、また全国の図書館蔵書目録を調査し、『本邦洋楽文献目録』を編纂。1952年に音楽之友社から刊行しました。これは後に『洋楽の本』へと繋がりました。

1963年からはNHK交響楽団に関わり、オーケストラ・ライブラリアンとしての業務を担当。また、『NHK交響楽団40年史』の編纂、刊行（1967年）や、N響機関誌『フィルハーモニー』創刊以来の総索引の編集、刊行（1968年）にも携わりました。1972年には、N響をはじめとする日本のオーケストラの定期公演記録をまとめた『日本の交響楽団定期公演記録：1927-1971』を刊行。さらに、1974年の創設から関わった民音音楽資料館（現・民音音楽博物館）では、『新編日本の交響楽団定期演奏会記録：1927-1981』を1983年に刊行しました。この公演記録はその後も民音から刊行が続けられています。

小川は、音楽図書館員の育成と国内外のネットワーク構築にも尽力しました。1956年には、IAML（国際音楽資料情報協会）に日本人として初めて加入。同年、国際音楽評議会（IMC）年次総会に出席し、1960年には国際民族音楽評議会（IMCFMC）年次総会に出席し、講演と展示を行いました。1966年には、在京の音楽図書館館員有志による音楽資料研究会を指導。1971年に発足した音楽図書館協議会の顧問に1974年に就任し、終生その立場で音楽図書館界の発展に貢献しました。小川の仕事に対する情熱は関係者の間で広く認められており、多くの後進から慕われる中、2008年に96歳でその生涯を閉じました。

主な著作

『レコードはいかに整理するか』（音楽之友社、1950）
『本邦洋楽文献目録』（音楽之友社、1952）
『本邦洋楽関係図書目録』（音楽之友社、1957）
『本邦洋楽関係図書目録・新版』（音楽之友社、1965）
『洋楽の本：明治期以降刊行書目』（民音音楽資料館、1977）
『日本の交響楽団定期公演記録：1927-1971』（カワイ楽譜, 1972）
『新編日本の交響楽団定期演奏会記録：1927-1981』（民主音楽協会音楽資料館、1983）
小川昂・中村洪介編著『日本のオーケストラ：1983-1985』（日本交響楽振興財団、1988）
日本放送協会編『外国楽曲の呼び方』（ラジオサービスセンター、1953）
日本放送協会編『新・外国楽曲の呼び方』（日本放送協会、1962）
『洋楽索引：作曲者と原題と訳題を引き出すための』（民音音楽資料館、1975）
『洋楽索引：作曲者と原題と訳題を引き出すための. 下巻』（民音音楽資料館、1980）

栄誉・受賞

1961年11月日本図書館協会会長賞
1972年4月黄綬褒章
1973年3月鳥井音楽賞（現サントリー音楽賞）（『日本の交響楽団』により）
1993年12月音楽之友社賞（NHK『日本民謡大観』制作スタッフとして）
1995年6月渡邊暁雄音楽基金特別賞
1998年10月 N響「有馬賞」、12月新日鉄音楽賞・特別賞（現・日本製鉄音楽賞）

小川昂は、その生涯を通じて日本の音楽文化の発展に大きく貢献した人物として、その功績は長く記憶されることでしょう。

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