中村渉

中村 渉（なかむら わたる）

1979年8月19日、青森県に生まれた中村渉は、元プロ野球選手であり、現在は野球指導者および家業の畳職人として多岐にわたる活動を展開しています。五戸町の出身で、従兄弟には元サッカー選手の石亀晃氏がいます。

青森県立八戸西高等学校時代は、野球部員として県大会2回戦進出が最高成績であり、全国的な知名度はほとんどありませんでした。卒業後、青森大学に進学しますが、野球部では入学直後に肘を負傷したことに加え、人間関係に悩んだこともあり、公式戦のマウンドに立つことなく3年生の春に退部を決断します。しかし野球への情熱は失わず、その後は同好会でプレーを続けつつ、大学の枠を超えた異色の経験としてアメリカンフットボール部にも入部しています。

大学を卒業する頃には肘の痛みは完治しており、実家である「中村畳工店」の手伝いをしながら、地元のクラブチームである三菱製紙八戸クラブで再び野球を楽しむ日々を送っていました。

転機が訪れたのは2004年。都市対抗野球の2次予選で披露した中村のピッチングが、その年限りで廃部が決まっていたJTの関係者の目に留まります。プロのスカウトはおろか、社会人野球ファンの間でもほとんど無名の存在であった中村でしたが、JTは最後の夏の補強選手として唯一彼を選出しました。そして迎えた本大会、中村は準々決勝で強豪として知られる東芝を相手に5安打完封という圧巻の投球を見せ、この大会最大の番狂わせの立役者となります。この劇的な活躍により、中村はプロ野球のスカウトや他の社会人強豪チームからの注目を一気に集めることとなりました。

同年のドラフト会議で、北海道日本ハムファイターズから7巡目で指名を受けプロ入りを果たします。これは八戸西高校および三菱製紙八戸クラブ出身者として初のプロ野球選手誕生という快挙でした。

プロ野球選手として日本ハムには2005年から3年間在籍しましたが、残念ながら一軍での登板機会を得ることはできませんでした。二軍でも目立った成績を残すには至らず、2007年シーズン終了後に球団から戦力外通告を受け、プロ野球選手としてのキャリアを終えました。

プロ引退後、中村は一時的に現役から退き、会社員として新たな道を歩み始めます。しかし、野球への情熱は冷めることなく、2008年にはかつて所属した三菱製紙八戸クラブにコーチ兼任投手として復帰。指導者と選手という二つの立場でチームを支えました。

そして2016年からは、実家である「中村畳工店」の家業を本格的に継ぎ、畳職人としての道を歩み始めます。伝統産業の担い手として活動する傍ら、2017年からは母校である八戸西高等学校の野球部コーチに就任し、高校球児の指導にも情熱を注いでいます。その指導が実を結び、チームは2021年に第93回選抜高等学校野球大会へ21世紀枠として初出場を果たしました。これは、多様な経験を持つ中村コーチの指導力の賜物と言えるでしょう。

無名から都市対抗でのシンデレラストーリーを経てプロ入り、そして引退後は畳職人、そして母校の指導者として甲子園出場に貢献するなど、中村渉氏は非常にユニークで多才なキャリアパスを歩んでいます。野球への深い愛情と、故郷への貢献を続ける彼の今後の活動にも注目が集まります。

詳細情報

年度別投手成績：一軍公式戦出場なし
背番号：48（2005年 - 2007年）
関連項目：青森県出身の人物一覧、青森大学の人物一覧、北海道日本ハムファイターズの選手一覧
外部リンク：X (@watarutatami48)、中村畳工店、Baseball-Reference (Japan)

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