中津野用水路

中津野用水路：少女のひらめきと悲劇の歴史

中津野用水路は、鹿児島県姶良市を流れる別府川の支流、山田川から取水し、山田地区と中津野地区の灌漑を担う全長約4kmの用水路です。この用水路は、地域農業にとって欠かせない存在であり、その歴史は一人の少女のひらめきと、彼女の悲劇的な運命によって彩られています。

水路建設以前の状況

中津野地区は、山田川と蒲生川の合流地点に位置し、両側を川に挟まれていました。しかし、土地が川面よりも高いため、水を引くことができず、水田での稲作は不可能でした。そのため、人々は陸稲や畑作に頼らざるを得ず、貧しい生活を強いられていました。「中津野の娘は嫁に来ない」とまで言われるほど、この地域は困窮していたのです。

水口ゆきえの登場

そのような状況下で、中津野に生まれた水口ゆきえ（当時は苗字なし、15歳）は、女生嶽の上から、山田地区から水路を引けば中津野に水を供給できることに気づきます。彼女は村の大人たちに熱心に提案し、ついに水路建設工事が開始されました。しかし、農繁期になると協力者が減り、最後にはゆきえが一人で工事を続けることになります。完成が近づくと再び協力者が集まり、1752年（宝暦2年）についに水路は完成し、中津野に待望の水田が作られるようになりました。

ゆきえの悲劇

水路を完成させたゆきえでしたが、その才能を恐れた権力者によって山中で殺害されてしまいます。同年12月、彼女の功績を称え、有志によって水口邸の一角に祠が建てられ、彼女は「正孝坂童子位」という法名で祀られました。これは、彼女が土地の勾配を見抜き、地域に貢献したことを意味しますが、本来は男子に与えられる法名です。水口家は、この水路建設の功績により水口の姓を与えられ、代々水守の仕事をしてきました。

現代に語り継がれる功績

1951年（昭和26年）4月15日、水路の取水口には、ゆきえの功績を顕彰する碑が建立されました。また、1974年（昭和49年）5月には、彼女の墓が姶良町の文化財に指定され、今なお地元住民によって称えられています。中津野用水路は、一人の少女のひらめきと、その犠牲の上に築かれた地域にとって重要な遺産であり、その歴史は今も語り継がれています。

参考文献

高橋ちえこ「ゆきえ」高城書房 ISBN 4-924752-72-X 1998年
姶良町郷土誌改定編さん委員会「姶良町郷土誌」平成7年10月増補改訂版 1995年

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