丸井清泰

丸井清泰：日本精神分析学黎明期の巨星

丸井清泰（まるい きよやす、1886年3月10日 - 1953年8月19日）は、日本の医学者、精神科学者であり、精神分析学の発展に大きく貢献した人物です。彼は、東北帝国大学医学部精神病学講座の教授や、弘前大学の初代学長を歴任し、日本の精神医学界に多大な影響を与えました。

生い立ちと教育

兵庫県神戸市で、丸井清太郎の七男として生まれた丸井清泰は、第四高等学校を経て、1913年に東京帝国大学医科大学を卒業しました。青山胤通の内科に入局後、東北帝国大学医学専門部にて精神病学の教鞭を執ることになります。当初、青山は馬場辰二を推薦しましたが、馬場が辞退したため、代わりに丸井が選ばれました。東京府巣鴨病院での研修を経て、1915年に東北帝国大学医学専門部講師となります。

精神分析学との出会い

1916年、丸井は東北帝国大学医科大学助教授に任じられ、欧米へ留学します。アメリカでは、ジョンズ・ホプキンス大学でアドルフ・マイヤー教授に師事し、脳組織学を研究しました。この留学が、丸井の精神分析学への関心を決定づけることになります。1919年に帰国し、東北帝国大学医学部教授に就任。同年、医学博士号を取得します。

精神分析学の普及と論争

丸井は、日本における精神分析学の先駆者として、その普及に尽力しました。帰国後、東北帝国大学で精神分析学の講義を開始し、多くの学生にその魅力を伝えました。しかし、彼の精神分析学説は、森田正馬や下田光造らから激しい批判を受け、論争を繰り広げることになりました。この論争は、当時の日本の精神医学界における多様な考え方を浮き彫りにするものでした。

研究と業績

丸井は、精神分析学の研究に情熱を注ぎ、多くの論文や著書を発表しました。特に、『精神分析学 その起源と発達』は、精神分析学の歴史と理論を包括的に解説した重要な著作です。また、フロイトの著作の翻訳も手がけ、日本における精神分析学の理解を深めました。彼の研究は、日本の精神医学の発展に不可欠なものであり、多くの後進を育てました。弟子には、古沢平作、山村道雄、懸田克躬らがいます。

弘前大学での活動

1948年、丸井は東北大学名誉教授の称号を受け、弘前医科大学長に就任します。翌年には、弘前大学長となり、大学の発展に貢献しました。しかし、弘前大学在任中には、弘前大学教授夫人殺人事件の精神鑑定を行うという、困難な仕事にも直面しました。丸井は、被疑者を心理学的に真犯人であると断定しましたが、後に冤罪であることが判明しました。この事件は、丸井の鑑定の限界を示すとともに、司法と精神医学の関係について、重要な問いを投げかけることになりました。

人物像

丸井は、精神分析学の普及に尽力する一方で、趣味人としても知られていました。野球や音楽を愛し、多才な一面を持っていました。また、宮城県仙台市北六番丁に住居を構え、兵庫県に在籍していました。

晩年

丸井清泰は、1953年に67歳でその生涯を閉じました。彼の死後も、その業績は精神医学界で高く評価されており、日本の精神分析学の礎を築いた人物として、その名は長く語り継がれるでしょう。

主要な著書

『小児期精神ノ衛生ト精神分析学』(1925年)
『精神分析療法 前篇 (輓近神経官能症学総論)』(1928年)
『季節と精神変調』(1936年)
『精神病学』(1936年)
『精神分析療法 後編 (輓近神経症学各論)』(1938年)
『精神病の話』(1946年)
『精神分析学 その起源と発達』(1951年)

翻訳

フロイト『日常生活の異常心理 下巻』(1930年)
フロイト『日常生活に於ける精神病理』(1941年)
フロイト選集1-2 『精神分析学入門 上下』(1952-1953年)

関連人物

ジークムント・フロイト
森田正馬
下田光造
古沢平作
山村道雄
懸田克躬

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