丸木舟

丸木舟：太古から現代へ続く水上交通の遺産

丸木舟は、巨木をくり抜いて作られたシンプルな舟です。接着剤や釘を使わず、一本の木から作られる単材刳舟が基本ですが、複数の木材を組み合わせた複材舟も存在します。その歴史は古く、新[[石器時代]]から使われていた痕跡が考古学的に確認されています。腐食しやすいものの、壊れにくく沈みにくいことから、大型船舶が登場した後も、漁労など様々な場面で活用されてきました。

日本の丸木舟：多様な形状と広範な分布

日本の丸木舟は、単材刳舟が主流で、材料となる木の大きさによって全長5～8メートル程度のものが一般的です。しかし、中には全長10メートルを超える大型のものも存在し、大阪市西淀川区で発掘された全長11.7メートルのクスノキ製刳舟はその代表例です。複材刳舟では、前後や左右に木材を継いだもの、舷側板や船底板を追加したものが知られています。

先史時代の丸木舟の発見例は日本全国で約200例あり、関東地方、特に千葉県に多く分布しています。千葉県北東部の栗山川流域や滋賀県の琵琶湖周辺、福井県から島根県にかけての日本海側でも多くの出土例があります。縄文時代後期～晩期のものが多くを占めますが、早期や前期のものも発見されており、2013年には千葉県市川市の雷下遺跡で、日本最古とされる縄文時代早期の丸木舟が出土しました。これらの出土品は、縄文時代の人々が丸木舟を使って島々を行き来していた可能性を示唆しています。

各地の発見例

東北地方: 宮城県多賀城市の市川橋遺跡からは、古墳時代後期のホオノキ製丸木舟が出土しています。

関東地方: 千葉県では、終戦後に発見された丸木舟から発芽した大賀ハスが有名です。南房総の加茂遺跡からは縄文時代中期初頭の丸木舟、九十九里浜沿岸では多数の丸木舟が発見されており、特に栗山川水系での出土例が多いです。埼玉県では綾瀬川で、茨城県では大宝沼干拓で発見されたものがあります。東京都では、北区上中里の中里遺跡から縄文時代中期の丸木舟が出土し、東京都の有形文化財に指定されています。神奈川県では、横須賀市の伝福寺遺跡で縄文時代中期初頭の丸木舟が発見されています。

近畿・北陸地方: 滋賀県では琵琶湖周辺で多数の丸木舟が発見されています。福井県若狭町の鳥浜貝塚や京都府舞鶴市の浦入遺跡からも縄文時代の丸木舟が出土しています。大阪府では、古墳時代の大型丸木舟が多数発見されていましたが、多くは戦災で失われています。

山陰地方: 鳥取県鳥取市の桂見遺跡、島根県島根大学構内遺跡などから縄文時代の丸木舟が出土しています。

九州地方: 長崎県諫早市の伊木力遺跡からは、縄文時代早期～前期の丸木舟の船底部分が出土しています。

歴史時代の丸木舟としては、山形県鶴岡市で奈良・平安時代のものと推定される大型の丸木舟が発見されています。富士五湖地域でも複数の丸木舟が出土しています。

丸木舟の民俗資料としての意義

丸木舟は、近代以降も漁労などで使用され続けましたが、FRP製の小型船舶の普及や材料となる大木の減少により、次第に姿を消しつつあります。そのため、多くの丸木舟が重要有形民俗文化財などに指定され、保護されています。製作技術なども無形民俗文化財として継承されています。

世界各地の丸木舟

アジア、南太平洋、ヨーロッパ北部、中東・地中海沿岸、ヨーロッパ南部、アフリカ、南北アメリカなど、世界各地で丸木舟が用いられてきました。地域によって形状や製作方法に違いが見られます。南太平洋地域ではアウトリガーカヌーが広く使われていますが、その起源については諸説あります。

丸木舟の製作

丸木舟の製作は、巨木の丸太をくり抜くことから始まります。石器時代には石器を用いて、現代では金属製の斧や鑿などが用いられます。北米の先住民の中には、火を用いて丸太をくり抜く技法も伝承されています。

まとめ

丸木舟は、人類の歴史と深く結びついた水上交通手段です。そのシンプルな構造と高い耐久性、そして各地で発見される多様な形状は、人類の創意工夫と自然との共生を物語っています。考古学、民俗学、そして造船技術といった多様な分野からの研究が、丸木舟という遺産の理解を深めています。

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