丹波の大溝

丹波の大溝

丹波の大溝は、京都府京丹後市峰山町丹波地区に位置する農業用水路です。1655年（明暦元年）に完成し、現在に至るまで、地域の農業を支える重要な役割を果たしています。この用水路は、当時の村人たちの知恵と努力によって作られました。

概要

丹波地区は、竹野川よりも土地が高く、慢性的な水不足に悩まされていました。この状況を打開するため、丹波村の役人であった伊左衛門が中心となり、用水路の建設が計画されました。伊左衛門は、夜間に提灯を灯して測量を行い、竹野川上流の荒山に水門を設けることで、丹波地区への水の供給が可能になると判断しました。その後、周囲の協力や藩の許可を得て、6年の歳月をかけて用水路が完成しました。

用水路は、上流部の峰山町荒山に水門を設け、そこから丹波地区まで水を引いています。用水路の途中には、小西川を渡るための「大溝の箱樋」と呼ばれる水道橋があります。当初は木製でしたが、現在は塩化ビニール製に置き換えられています。この用水路は、現在も丹波の田のおよそ4割に水を供給しており、地域農業に欠かせない存在です。

背景

工事までの経緯

丹後半島を流れる竹野川は、水量が豊富でしたが、丹波地区は竹野川よりも高いため、水を得るのが困難でした。日照りが続くと渇水に悩まされ、大雨が降ると水田が水浸しになるという状況でした。そのため、丹波地区では、上流の隣村から水を引く必要があり、水資源をめぐって争いが起こることもありました。このような状況下で、丹波の大溝の建設が計画されました。

1752年（宝暦3年）の『峯山明細記』によると、竹野川流域には複数の井堰があり、その一つが「丹波郷大井堰」であり、これが現在の「丹波の大溝」として知られています。

大溝堀の開始

1648年（慶安）頃、丹波村の役人であった伊左衛門は、水不足に苦しむ村人のために、用水路建設を決意しました。昼間は農作業を行い、夜間に妻と協力して、提灯を灯しながら測量を行いました。約半年間の測量の結果、竹野川と鱒留川の合流地点から水を引くことが可能であると判断しました。当初、村人たちはこの計画に賛同しませんでしたが、伊左衛門は村の庄屋と協力し、工事が失敗した場合は自分の首を差し出すという誓いを立てました。最終的に、村人の賛同を得て、工事が開始されました。

工事は、1650年（慶安3年）に始まり、村人総出で行われました。峯山藩も人手を出し、工事を支援しました。用水路は、荒山地内を193間、丹波地内を600間通す、総延長793間に及ぶ大工事でした。

大溝の箱樋

用水路の工事が進む中で、小西川が用水路のルートを阻むという問題が発生しました。そこで、伊左衛門は、小西川の上に箱樋を架けることを決断しました。木材の確保が困難でしたが、藩主に直訴し、藩主所有の権現山の木材を使用する許可を得ました。藩主は当初、赤銅製の箱樋を提案しましたが、伊左衛門は村人たちが修理しやすい木製が良いと主張し、藩主の理解を得ました。これにより、箱樋は無事に完成し、1655年（明暦6年）に用水路全体が完成しました。

箱樋は、その後も権現山の木材で修繕され、近代にはコンクリート製に架け替えられましたが、21世紀初頭には塩化ビニール製となっています。

完成後の峰山町丹波

用水路が完成するまで、丹波地区は貧しい土地でしたが、用水路の完成によって豊かになりました。かつては「嫁にやるな」と言われた丹波地区は、「嫁においでよ」と歌われるほどに変化しました。

伊左衛門は、工事が失敗すれば首を差し出すという誓いを立てていましたが、無事に工事を終え、長生きしました。しかし、村人たちは「矢田や丹波の郷の田開き疎水 首出せ 杭出せ 公役（やく）出すぞ」と歌い、伊左衛門の苦労を称えました。

伊左衛門は1676年（延宝4年）に亡くなり、その後、妻も亡くなりました。現在でも、命日には丹波区長らが墓参りを行います。

1937年（昭和12年）には、丹波区の有志によって、伊左衛門の功績を称える記念碑が建立されました。碑文には、伊左衛門のほか、用水路の建設に貢献した人々の名前が刻まれています。

丹波の大溝は、江戸時代から現在まで、地域の農業を支え続けている貴重な遺産です。

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