主体農法

主体農法（チュチェ農法）

主体農法とは、朝鮮民主主義人民共和国（北朝鮮）において実施されている農業の様式で、主体思想に基づき、食糧自給を目指すものです。この農法は、金日成や金正日父子の指導の下、農業の発展が求められていましたが、その実態には多くの問題があります。

歴史的背景

朝鮮半島北部は、日本統治時代に主に鉱工業が発展しました。そのため、北朝鮮が独立した際には、食糧問題の解決が急務とされ、主体思想に基づいた農業政策が推進されました。主体思想は、外国の干渉を排除し、自給自足の理念を掲げたもので、「ウリ（我々）式社会主義」として知られています。

主体農法の実践と問題点

主体農法の実践は、観念的なスローガンに基づき、朝鮮労働党の指導に従うことが求められました。この農法は、伝統的な農法や近代的な科学に基づく農法を無視したため、大きな失敗を招きました。農地の過剰利用や自然環境の破壊を引き起こし、結果として食糧難を招く原因となりました。

例えば、「食料が足りないなら山を開墾し農地を作れ」という単純な発想から、北朝鮮中に山林を切り開いたため、耕作地の70％以上が傾斜の厳しい山の斜面であることが問題になりました。このような不適切な農業方法は、気候の影響を受けやすく、必要な水の保持もうまく行われず、崩壊する危険が高まりました。

さらに、主体農法では、密植を推進しましたが、この方法により土壌の消耗が進み、効率的な農業生産が行えなくなりました。化学肥料の依存が強まり、ソ連からの支援が途絶えると、農地が劣化し、実質的な生産量は急激に減少しました。

大洪水と主体農法の関係

1990年代には大雨による水害が発生し、その原因の一つが主体農法による不適切な開発とされています。河川の氾濫が多発し、その影響で農業に打撃が加わりました。また、主体農法による農産物の栽培はコメとトウモロコシの二つに偏り、そのために多様な食糧供給の確立ができない状況に陥っていました。

1995年の大洪水以降、世界食糧計画や国際機関が北朝鮮の農業実態を調査した結果、そこでの食糧難や農業生産危機の真の原因が主体農法と政策失敗であると指摘されました。農業専門家たちが提案する多様な作物の栽培について、金日成の「教示」に反するとして意見を述べることの一切が許されない状況が続いていました。

軌道修正へ

主体農法に対する批判が高まる中、1997年、金日成死後に農業政策の実質的な見直しがなされました。「農民の志向に合わせる」という形で、家族経営や作物の自由な取り扱いなどが認められるようになりました。しかし、この修正政策においても「教示自体の間違いはない」との認識が残り、根本的な変化には至らなかったのです。

結論

主体農法は、北朝鮮特有の困難な課題を抱えています。歴史的背景から、生産手法の非効率さや自然環境への影響を考慮しない政策が続いた結果、農業生産は危機的な状況に陥り、国民の生活にも重大な影響を及ぼすこととなりました。北朝鮮の農業が直面している課題は、今後どのように克服されていくのでしょうか。

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