久保信

久保信：日本のフィギュアスケート黎明期のスター

久保信（くぼ まこと、1903年8月19日 - 1991年6月29日）は、北海道札幌市出身のフィギュアスケート選手である。明治大学政治経済学部卒業。日本のフィギュアスケート界において、初期の重要な役割を担った人物として知られる。

久保は、札幌商工会議所会頭を務めた久保兵太郎を父に持ち、裕福な家庭環境で育った。札幌商業学校時代からスケートを始め、独学で技術を磨いた。その才能は早くから開花し、1923年には日本スケート会（日本スケート連盟の前身の一つ）主催の選手権に出場するなど、若くして頭角を現した。

明治大学入学後は、1926年から1930年まで（1927年は大会中止）、日本学生氷上競技選手権（インカレ）に4年連続で出場。4大会連続で2位という好成績を収めた。この大会では、金子諭吉（慶大）が3連覇を達成しており、久保は常に金子の後塵を拝する立場にあった。

しかし、1929年の日本スケート会主催のフィギュアスケート選手権で、久保はついに金子を破り、優勝を果たす。この勝利は、久保の実力と才能を広く世に知らしめることとなった。同年、日本スケート連盟が発足。翌1930年1月には、同連盟主催の第1回全日本フィギュアスケート選手権が開催された。この大会では、規定演技では4位に終わったものの、持ち前の自由演技で圧倒的なパフォーマンスを見せ、金子を逆転。初代全日本王者に輝いたのである。

当時の新聞報道では、久保の自由演技について「欧米のレベルにあるのは自由演技での久保だけ」と高く評価されており、その卓越した技量は、日本のフィギュアスケート界において先駆的な存在であったことを示している。

大学卒業後は競技から離れ、故郷の北海道に戻った。1932年のレークプラシッドオリンピックの候補にも選ばれたものの、出場は辞退している。戦後は北海道スケート連盟会長に就任。1954年のスピードスケート世界選手権の札幌開催を実現させるなど、北海道におけるスケート競技の発展にも大きく貢献した。

久保の才能はフィギュアスケートにとどまらず、多方面にわたっていた。彼の兄は劇作家の久保栄、弟は画家の久保守であり、芸術的な才能に恵まれた一家に生まれたことがわかる。

1991年6月29日、急性肺炎のため87歳で死去。彼の功績は、日本のフィギュアスケート界に不滅の足跡を残した。日本のフィギュアスケート黎明期を支えた、重要な人物として、その名を後世に伝えるべきである。

主な戦績

1929年：日本スケート会主催フィギュアスケート選手権 優勝
1930年：第1回全日本フィギュアスケート選手権 優勝

参考文献

日本スケート連盟 編『日本のスケート発達史』、ベースボールマガジン社、1981年
木原直彦『北海道文学散歩 II 道央編』立風書房、1982年
札幌市教育委員会 編『札幌人名事典』札幌市、1993年
日本スケート連盟広報委員会『日本スケート連盟会報 92号』、日本スケート連盟広報委員会、2001年
* 日本スケート連盟『日本スケート連盟75年のあゆみ』、日本スケート連盟、2004年

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