久保栄

久保栄：演劇と文学に捧げた生涯

久保栄（1900年 - 1958年）は、日本の演劇界と文学界に多大な足跡を残した劇作家、演出家、小説家、そして批評家です。彼の作品は、社会の矛盾や人間の内面を深く掘り下げ、観客や読者に強い印象を与え続けています。

生い立ちと演劇との出会い

1900年、北海道札幌で生まれた久保栄は、幼少期に養子となり、東京で育ちました。東京帝国大学ではドイツ文学を専攻し、卒業後は築地小劇場に入団。小山内薫や土方与志から演劇の基礎を学びました。この時期に、彼は演劇への情熱を燃やし、才能を開花させていきます。

プロレタリア演劇運動への参加

1930年代には、プロレタリア演劇運動に積極的に参加し、その中心的な存在として活躍しました。彼は、演劇を通じて社会変革を目指し、数々の作品を発表しました。代表作には、『中国湖南省』や『青年教育』などがあり、これらの作品は当時の社会情勢を反映し、観客に強いメッセージを伝えました。また、小型形式脚本の分野でも、『逆立つレール』や『ドニエーブル発電所』など、斬新な舞台演出で注目を集めました。

リアリズム論争と『火山灰地』

社会主義リアリズムが日本に導入されると、久保栄はリアリズム論争の旗手として議論に参加。自らの理論を積極的に展開しました。1938年には、代表作である『火山灰地』を発表。この作品は、北海道の科学者と農民の対立を描き、社会問題に深く切り込んだ内容で、直木賞候補にもなりました。『火山灰地』は、現代にも通じる普遍的なテーマを扱い、何度も再演され、多くの観客に感動を与えています。

戦後の活動と晩年

戦後、久保栄は滝沢修、薄田研二と共に東京芸術劇場を設立し、新たな演劇運動を始めました。また、劇団民藝の特別劇団員として活躍する傍ら、演劇研究所で演技指導を行い、後進の育成にも尽力しました。晩年には、小説『のぼり窯』を発表し、生家の煉瓦工場を舞台に、北海道の開拓史を描きました。しかし、体調を崩し、未完のまま終わってしまいます。

久保栄の遺産

久保栄は、1958年にうつ病により自ら命を絶ちましたが、彼の作品は、今もなお多くの人々に読まれ、演じられています。彼の戯曲や小説は、社会への鋭い批判精神と、人間への深い洞察に満ちており、時代を超えて読者の心を捉えます。また、彼の演劇論は、後世の演劇人に大きな影響を与え続けています。

主な作品

戯曲
『五稜郭血書』
『火山灰地』
『林檎園日記』
『日本の気象』
小説
『のぼり窯』

参考文献

「久保栄全集」全12巻（三一書房）
『久保栄研究』全11号（久保栄研究会・久保マサ発行）
井上理恵『久保栄の世界』(社会評論社）
吉田一『久保栄「火山灰地」を読む』（法政大学出版局）
祖父江昭二『久保栄・「新劇」の思想』（エール出版社）

久保栄の生涯は、演劇と文学に対する情熱と、社会への強い責任感に彩られていました。彼の残した作品は、これからも多くの人々に感動と深い思考を与え続けるでしょう。

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