久保田一竹

久保田 一竹の軌跡

初代久保田 一竹（くぼた いっちく）は、1917年10月7日、東京神田で骨董品屋の息子として誕生しました。彼は、関東大震災により家業が全焼したことを契機に、職人としての技術を磨く決意を固めました。手書き友禅に魅了され、有名な友禅師の小林清のもとで修行を始め、1934年には大橋月皎から人物画、1936年には北川春耕から日本画を学ぶなど、幅広い芸術的な経験を積みました。

彼が特に心引かれたのは、東京国立博物館で見た室町時代の『辻が花染め』の裂けでした。この技法は、かつての美しさを持ちながらも、手間がかかりすぎて市場から姿を消していました。この状況に対し、一竹は単なる復元ではなく、現代にあった独自の辻ヶ花を創出することを目指して研究に没頭しました。しかし、その道のりは平坦ではありませんでした。

1944年、一竹は太平洋戦争に招集され、出兵の運命に身を投じます。戦後、彼はシベリアに捕虜として抑留されますが、その逆境の中でも創作を続け、手に入れた素材を使って布を染めたり、毛で筆を作るなどして、技術の探求心を持ち続けました。抑留中に見たシベリアの夕日が彼の心に深く刻まれ、これが後の作品にも影響を与えました。

1962年、一竹は伝統的な辻が花技法を完全に復刻することが不可能であると悟り、自らのスタイルで”一竹辻が花”を創り上げる決断をします。これには、縮緬の絹糸や人工染料を使用する革新性が見られ、この契機が彼の作品に新たな命を吹き込みました。1977年には自身初の装飾着物展を開催し、多くの注目を集めます。

1990年、フランス文化省からシュバリエ章を授与され、国際的にも評価される存在となりました。一竹の着物は“光のシンフォニー”、“宇宙の威厳”と称され、それは彼の作品が持つ独自の美しさやディテールの詩的な表現に起因しています。1995年には、ワシントンのスミソニアン博物館に彼の作品の一部が展示され、存命のアーティストとしてこの名誉を授かるのは彼が初めてでした。

生涯を通じて一竹は80点の着物のデザインを手掛け、そのうち40点を完成させる偉業を成し遂げました。彼の作品には、着物から別の着物へと柄が引き継がれ、四季をしっかりと表現したユニークなデザインが多くあります。

2003年4月26日に彼が逝去した後、長男の悟嗣が二代目としてその意思を引き継ぎ、彼の名作の数々は今でも多くの人々に影響を与え続けています。

出版物

一竹は自身の技術や作品を広く伝えるため、いくつかの著作も残しています。主な著書には、1979年の『一竹辻が花 久保田一竹作品集』や1982年の『一竹辻が花　久保田一竹作品集（別冊太陽）』、さらには1984年の『一竹辻が花 OPULENCE』などがあります。これらの書籍は、彼の芸術観や作品に対する情熱を知るための貴重な資料となっています。

久保田一竹の業績は、日本の伝統工芸の再興と革新の象徴として、未来の世代に引き継がれていくことでしょう。

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