久保田不二子

久保田不二子：歌人としての軌跡

生い立ちと結婚生活

久保田不二子（くぼた ふじこ）は、1886年5月16日に長野県下諏訪町高木で生まれました。彼女は父・政信、母・ぬいのもと、10歳上の姉・うたと共に育ちました。不二子が16歳の時、姉のうたが亡くなるという悲劇が訪れます。この出来事は、彼女の人生に大きな影響を与えることとなりました。

姉の死後、不二子は家族を支えるため、歌人・島木赤彦の後妻となります。二人は1903年に第一子となる娘・初瀬をもうけ、その後も四人の子供を出産しました。しかし、彼女は夫との年齢差（不二子が10歳年下）もあり、家事や農作業、子供の育成に専念する一方で、夫の公職のために家庭を留守にする日々が続きます。島木は小学校の校長として東筑摩郡広丘村（今の塩尻市）で勤務していました。この時期、不二子は夫の恋愛問題に起因する悩みを抱えることになります。

歌人としての活動

不二子の歌人としての活動が始まったのは1911年（明治44年）のことでした。彼女は『アララギ』に15首の歌を発表し、心の中の深い悩みを歌に昇華させることで自らの感情を表現しました。「……夫は公職にあったので、家を明ける日が多かった。……私は心の裡に深い悩みを有つようになった」と記しており、この苦悩が歌作りの原動力となったことが伺えます。

その後、1933年には第一歌集『苔桃』を刊行し、続いて1952年に第二歌集『庭雀』、1961年に第三歌集『手織衣』を発表します。1966年には、彼女の亡き後に第四歌集『松の家』が遺族によって出版されました。不二子の初期の歌風は、彼女自身の苦しい立場を表現したものであり、情熱的な作品が多いことで知られています。しかし、後年には自然描写をテーマにしたあっさりとした作品が目立つようになり、不二子は自然と共に生きる歌人として認識されるようになりました。

晩年

島木赤彦の功績を偲びながら穏やかな日々を過ごしていた不二子は、1965年12月17日に79歳でこの世を去りました。彼女の晩年に残した言葉は、「桑の木をあつめて焼きし茨炭は(に)　土は交れどあたたかくして」というもので、深い意味を持った絶筆として評価されています。

代表作

彼女の代表作には、第一歌集『苔桃』と第二歌集『庭雀』があります。不二子の作品は、彼女の内面的な感情や自然との調和を謳ったものとして、今日まで多くの人々に親しまれています。

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