久富貢

久富貢：フェノロサ研究と近代日本画を繋いだ美術評論家

久富貢（1908年-1988年）は、20世紀日本の美術界に大きな足跡を残した美術評論家です。福岡県に生まれ、広島高等学校を経て京都帝国大学文学部美学美術史学科を卒業。その後、東京帝国大学大学院に進学するも中途退学し、日本大学講師などを経て、国際文化振興会に勤務しました。

久富氏の研究活動の中心は、近代日本画とフェノロサ（アーネスト・フェノロサ）でした。フェノロサは、日本美術の西洋への紹介に貢献したアメリカ人東洋学者であり、久富氏は彼の思想と活動に深い関心を抱き、生涯にわたって研究を続けました。その成果は、『フェノロサ 日本美術に献げた魂の記録』（1957年）や『アーネスト・フランシスコ・フェノロサ 東洋美術との出会い』（1980年）といった著作に結実しています。これらの著書は、フェノロサ研究における重要な参考文献として今日でも高く評価されています。

教育者としての久富氏の貢献も無視できません。中央労働学園専門学校、法政大学、東京学芸大学などで講師や教授を務め、後進の育成に尽力しました。東京学芸大学附属図書館館長も歴任し、教育機関における長年の活動を通して日本の美術教育に多大な影響を与えました。東京学芸大学停年退官後も、共立薬科大学や跡見女子大学で教授職を続け、教育への情熱を生涯貫きました。

さらに、久富氏は数々の美術全集の編纂にも携わっています。『講談社版日本近代絵画全集』『現代日本美術全集』『日本の名画』『カンヴァス日本の名画』など、多くの重要な美術書を世に送り出し、日本の美術史研究に貢献しました。これらの編纂作業は、単なる編集作業にとどまらず、日本の美術を体系的に整理し、後世に伝えるという重要な役割を果たしました。

彼の活動は、単なる美術評論や教育にとどまりません。翻訳の分野でも活躍し、『エミール・ウティッツの美学』やジョン・ラファージの『画家東遊録』といった重要な著作を日本語に紹介しました。これら翻訳活動は、日本の美術研究に西洋の知見を取り入れる上で重要な役割を果たしました。

私生活では、料理評論家の久富志子を妻に迎えました。また、孫には映画研究者の谷川建司氏がいます。このように、久富家の家系には文化・芸術に携わる人物が多く、その才能は世代を超えて受け継がれていることが分かります。

久富貢は、美術評論家、教育者、翻訳家として多岐にわたる活躍を見せました。フェノロサ研究を通して近代日本画を深く探求し、その知見を著作や編纂、教育を通して後世に伝えた彼の功績は、日本の美術史研究において大きな意義を持っています。彼の多面的な活動は、現代の美術研究者や教育者にとって貴重な示唆を与え続けています。

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