久米島守備隊住民虐殺事件
「久米島守備隊住民虐殺事件」は、第二次世界大戦末期、激戦が展開された沖縄において、久米島で発生した悲劇的な出来事である。「久米島事件」とも呼ばれ、日本海軍の駐留部隊が、島民を含む複数に対し、不当な理由で殺害を行った大量虐殺事件を指す。この事件は沖縄戦の終盤から日本の降伏後にかけて起きた。
1945年6月、米軍は戦略上重要度が高くなかった久米島の攻略を開始する。上陸に先立ち、情報収集を目的とした部隊が島に潜入し、住民から数名の男性（うち1名は少年）を連行した。彼らからの情報に基づき、島にはわずか30数名程度の日本海軍部隊しか駐留していないことが明らかになり、米軍は上陸部隊の規模を縮小したとされる。武器弾薬に乏しい久米島分遣隊は組織的な抵抗ができず山中に撤退し、米軍による島の占領が進んだ。
6月26日、米軍の上陸時に拉致されていた住民は解放された。しかし、久米島守備隊の隊長であった鹿山正海軍兵曹長（当時32歳）は、彼らが米軍に協力したのではないかとの疑念を抱いた。その翌日の6月27日、鹿山兵曹長は米軍からの降伏勧告状を携行して部隊に戻った郵便局員を銃殺するよう命じた。さらに6月29日には、先に米軍に連行されていた地域の責任者とその家族、合計9名を処刑し、遺体を家屋ごと焼き払うという残虐な行為を行った。この出来事を通じて、島民は「スパイ」と疑われた場合、家族全員が殺害される可能性があるという強烈な恐怖に晒された。日本軍に対する畏怖は米軍への恐怖をも上回り、犠牲者の遺骨すら拾えない親族もいたという。また、最初に処刑された郵便局員の妻は、親族への累を恐れ、自宅を出て入水自殺したとされる。
鹿山兵曹長による独断的な処刑はその後も続いた。彼は部下や義勇兵に対し、無謀な特攻を命じ、そこから生還した兵士を「処刑」した。また、米軍の投降呼びかけビラを持っていた者や、投降を試みた者も「スパイ」あるいは「利敵行為」と見なし、殺害した。鹿山隊長は島民に対しても徹底抗戦を強要し、山への避難を命じ、従わない者には処刑を警告した。一部の島民は共に山に籠ったが、大半はすでに米軍が実質的に島を掌握し、帰宅を促している状況下で、その指示に従わなかった。
驚くべきことに、これらの虐殺行為は日本の降伏が決定した1945年8月15日以降も続いた。8月18日には、米軍の捕虜となり、久米島に戻って島民に投降を呼びかけ、多くの命を救ったとされる久米島出身の元海軍兵とその妻子を含む一家4名が、鹿山隊長によって処刑され家を焼かれた。さらに8月20日には、地元の住民や部下を動員し、久米島に住んでいた朝鮮人の一家を惨殺した。これらの行為は、すでに停戦命令が出ていた後の私的な戦闘行為、すなわち軍規違反の疑いすらある。
最終的に、この事件で鹿山隊長によって殺害された島民は、確認されているだけで5件、合計22名（一説には29名）に及んだ。加えて、部下であっても命令不服従などを理由に3名の兵士が処刑されたという。
事件の責任者である鹿山兵曹長は、戦後の1972年にメディアのインタビューに応じ、処刑の事実を認めた。しかし彼は、自らの行為を「スパイ行為に対する当然の措置」であり、「日本軍人として正当な行為であった」と主張し、正当化を試みた。彼の証言からは、朝鮮人を含む島民全体に対する強い疑念や、自らの行為が招いた状況への恐怖心からくる自己都合的な動機がうかがえる。当時の久米島にあった二つの村議会は、こうした鹿山の発言に対し、個人に対する弾劾決議を採択し、遺族からも強い憤りが表明されたとされる。
この事件の最大の問題点は、鹿山兵曹長の行為が軍法上、極めて疑わしいものであったことにある。当時の海軍刑法では、一般人に法を適用しないことが明記されており、仮に適用するにしても軍法会議を経る必要があった。さらに、戦場や占領地ではない「内地」である沖縄県において、一介の下士官である兵曹長が独断で住民を処刑する権限はなかった。軍法会議自体は、戦時下であれば士官3名がいれば開廷できた例もあり、スパイ容疑での民間人への適用も可能性としてはゼロではなかったかもしれない。しかし、久米島守備隊で最高位だったのが兵曹長であり、尉官（士官）は不在だったため、軍法会議の開催は事実上不可能であり、鹿山兵曹長に処刑権限がなかったことは明白である。したがって、住民への処刑は人道上の問題に加え、明確な軍規違反行為であった。
戦後、1948年に事件の遺族はGHQや米軍、日本の警察に告発状を提出した。しかし、米軍は国外問題として扱わず、日本の警察も捜査を行ったものの、立件に至るだけの十分な証拠が得られなかったとされる。終戦直後の極度の混乱と、沖縄が一時的に日本政府の管轄から離れていた特殊な状況も相まって、結局、この一連の虐殺事件に関して、関係者が刑事訴追を受けることは一切なかった。
久米島守備隊住民虐殺事件は、戦争という異常な状況下で、軍規を逸脱した独断的な判断がいかに悲惨な結果を招くかを示す事例として記憶されている。事件現場となった旧日本軍の施設跡は、戦後米軍基地を経て、現在は航空自衛隊の分屯基地となっている。この事件は、その後もドキュメンタリー番組などで取り上げられ、戦争の傷跡として語り継がれている。
事件の背景
1945年6月、米軍は戦略上重要度が高くなかった久米島の攻略を開始する。上陸に先立ち、情報収集を目的とした部隊が島に潜入し、住民から数名の男性（うち1名は少年）を連行した。彼らからの情報に基づき、島にはわずか30数名程度の日本海軍部隊しか駐留していないことが明らかになり、米軍は上陸部隊の規模を縮小したとされる。武器弾薬に乏しい久米島分遣隊は組織的な抵抗ができず山中に撤退し、米軍による島の占領が進んだ。
虐殺の始まりと拡大
6月26日、米軍の上陸時に拉致されていた住民は解放された。しかし、久米島守備隊の隊長であった鹿山正海軍兵曹長（当時32歳）は、彼らが米軍に協力したのではないかとの疑念を抱いた。その翌日の6月27日、鹿山兵曹長は米軍からの降伏勧告状を携行して部隊に戻った郵便局員を銃殺するよう命じた。さらに6月29日には、先に米軍に連行されていた地域の責任者とその家族、合計9名を処刑し、遺体を家屋ごと焼き払うという残虐な行為を行った。この出来事を通じて、島民は「スパイ」と疑われた場合、家族全員が殺害される可能性があるという強烈な恐怖に晒された。日本軍に対する畏怖は米軍への恐怖をも上回り、犠牲者の遺骨すら拾えない親族もいたという。また、最初に処刑された郵便局員の妻は、親族への累を恐れ、自宅を出て入水自殺したとされる。
鹿山兵曹長による独断的な処刑はその後も続いた。彼は部下や義勇兵に対し、無謀な特攻を命じ、そこから生還した兵士を「処刑」した。また、米軍の投降呼びかけビラを持っていた者や、投降を試みた者も「スパイ」あるいは「利敵行為」と見なし、殺害した。鹿山隊長は島民に対しても徹底抗戦を強要し、山への避難を命じ、従わない者には処刑を警告した。一部の島民は共に山に籠ったが、大半はすでに米軍が実質的に島を掌握し、帰宅を促している状況下で、その指示に従わなかった。
終戦後の悲劇
驚くべきことに、これらの虐殺行為は日本の降伏が決定した1945年8月15日以降も続いた。8月18日には、米軍の捕虜となり、久米島に戻って島民に投降を呼びかけ、多くの命を救ったとされる久米島出身の元海軍兵とその妻子を含む一家4名が、鹿山隊長によって処刑され家を焼かれた。さらに8月20日には、地元の住民や部下を動員し、久米島に住んでいた朝鮮人の一家を惨殺した。これらの行為は、すでに停戦命令が出ていた後の私的な戦闘行為、すなわち軍規違反の疑いすらある。
最終的に、この事件で鹿山隊長によって殺害された島民は、確認されているだけで5件、合計22名（一説には29名）に及んだ。加えて、部下であっても命令不服従などを理由に3名の兵士が処刑されたという。
責任者の言動と問題点
事件の責任者である鹿山兵曹長は、戦後の1972年にメディアのインタビューに応じ、処刑の事実を認めた。しかし彼は、自らの行為を「スパイ行為に対する当然の措置」であり、「日本軍人として正当な行為であった」と主張し、正当化を試みた。彼の証言からは、朝鮮人を含む島民全体に対する強い疑念や、自らの行為が招いた状況への恐怖心からくる自己都合的な動機がうかがえる。当時の久米島にあった二つの村議会は、こうした鹿山の発言に対し、個人に対する弾劾決議を採択し、遺族からも強い憤りが表明されたとされる。
この事件の最大の問題点は、鹿山兵曹長の行為が軍法上、極めて疑わしいものであったことにある。当時の海軍刑法では、一般人に法を適用しないことが明記されており、仮に適用するにしても軍法会議を経る必要があった。さらに、戦場や占領地ではない「内地」である沖縄県において、一介の下士官である兵曹長が独断で住民を処刑する権限はなかった。軍法会議自体は、戦時下であれば士官3名がいれば開廷できた例もあり、スパイ容疑での民間人への適用も可能性としてはゼロではなかったかもしれない。しかし、久米島守備隊で最高位だったのが兵曹長であり、尉官（士官）は不在だったため、軍法会議の開催は事実上不可能であり、鹿山兵曹長に処刑権限がなかったことは明白である。したがって、住民への処刑は人道上の問題に加え、明確な軍規違反行為であった。
戦後の経緯
戦後、1948年に事件の遺族はGHQや米軍、日本の警察に告発状を提出した。しかし、米軍は国外問題として扱わず、日本の警察も捜査を行ったものの、立件に至るだけの十分な証拠が得られなかったとされる。終戦直後の極度の混乱と、沖縄が一時的に日本政府の管轄から離れていた特殊な状況も相まって、結局、この一連の虐殺事件に関して、関係者が刑事訴追を受けることは一切なかった。
久米島守備隊住民虐殺事件は、戦争という異常な状況下で、軍規を逸脱した独断的な判断がいかに悲惨な結果を招くかを示す事例として記憶されている。事件現場となった旧日本軍の施設跡は、戦後米軍基地を経て、現在は航空自衛隊の分屯基地となっている。この事件は、その後もドキュメンタリー番組などで取り上げられ、戦争の傷跡として語り継がれている。
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