九二式七粍七旋回機銃

大日本帝国海軍が運用した航空機搭載用の代表的な旋回機関銃の一つに、九二式七粍七旋回機銃があります。これは、主に爆撃機や攻撃機といった機体の防御火器として、後方や側方の銃座に装備されました。当時の海軍航空隊にとって、敵戦闘機などからの攻撃を防ぐための重要な兵装であり、九七式艦上攻撃機や九九式艦上爆撃機をはじめとする多くの主要な海軍機に搭載されています。

開発の背景

本銃の開発は、大正時代にまで遡ります。第一次世界大戦後、日本海軍は近代的な航空戦力整備のため、イギリスやフランスといった航空先進国から多数の軍用機を輸入しました。この際、当時の連合国軍機の標準的な航空機銃であったイギリス製ルイス機銃が、同じくイギリス製のヴィッカース機銃と共にもたらされました。海軍は、ルイス機銃の性能に着目し、これを日本海軍の装備として採用することを決定。1921年（大正10年）には「留式七粍七旋回機銃」として仮称が与えられ、制式採用へ向けた手続きが進められました。同時に、輸入された実物を参考にしながら、国内での試作開発も開始されました。

九二式旋回機銃の誕生と普及

国内での試作・改良を経て、1933年（昭和8年）5月、本銃はついに「九二式七粍七旋回機銃」として制式採用されました。「九二式」という名称は、採用年の皇紀2592年に由来します。制式採用後は、海軍の航空機用旋回機銃としての役割はもちろんのこと、軍艦に搭載される対空機銃や、上陸作戦などで活躍する海軍陸戦隊の地上戦闘用機関銃としても幅広く使用されました。第二次世界大戦が始まると、本銃は日本海軍の主要な機銃の一つとして、太平洋各地の戦場で終戦まで継続して使用されることになります。なお、同時期に日本陸軍が「九二式重機関銃」という名称の機関銃を採用していますが、これは全く異なる設計思想と用途を持つ別個の火器であり、混同すべきではありません。

生産と改良

九二式七粍七旋回機銃の生産は、海軍の主要な工廠である横須賀海軍工廠と豊川海軍工廠で担われました。少なくとも1944年（昭和19年）まで生産が続けられ、その生産期間の長さは、本銃が海軍の標準兵器としていかに信頼され、重要視されていたかを示しています。長期間の使用の中で、操作性を向上させるための改良も施されました。特に、寒冷地などでの運用を考慮し、搭乗員が厚手の手袋を装着したままでも引き金を引きやすいように、引き金ガード（トリガーガード）部分を大型化した型も製造されました。

使用弾薬の特殊性

本銃が使用する弾薬は、開発の基となったルイス機銃と同様に、イギリス軍の標準弾薬であった.303ブリティッシュ弾（7.7mmx56R）でした。これは、弾頭径7.7mm、薬莢長56mmで、薬莢底部にリム（起縁）を持つタイプです。特筆すべきは、同時期に日本陸軍が歩兵銃や機関銃に使用していた7.7mm弾（九九式普通実包など）とは互換性が全くなかったという点です。これは、陸海軍の兵器体系が独立していたことに起因する問題の一つであり、補給面での課題を抱える一因ともなりました。

後継機銃

九二式七粍七旋回機銃の後継として、ドイツのMG 15機関銃をライセンス生産した一式七粍九旋回機銃が登場しました。一式機銃は九二式よりも強力な7.92mm弾を使用しましたが、九二式も終戦まで多数が使用され続けました。

主な型式

留式七粍七旋回機銃: イギリスから輸入されたオリジナルのルイス機銃。照準器にはノルマン式移動照星が用いられていました。
留式七粍七旋回機銃改一: 輸入されたルイス機銃の改良型。照準器が固定式照星に変更され、排莢された薬莢を回収するための打殻袋も改修されています。
* 九二式七粍七旋回機銃改一: 留式改一の設計を基に、日本国内で生産されたモデルです。基本的な仕様は留式改一に準じます。

もう一度検索