九四式甲号撒車

九四式甲号撒車とは

九四式甲号撒車（94しきこうごうさんしゃ）は、日本陸軍が1934年に導入した特殊な戦車両で、主に化学戦に使用されました。この車両の名称は、採用年である皇紀2594年に由来しています。九四式甲号撒車は、同時期に開発された姉妹車両である九四式甲号消車と共に、毒ガスの運搬や撒布を目的として設計されました。

開発背景

九四式甲号撒車は実際には対ソ連戦における毒ガスの使用を目的とし、前線での運用を念頭に置いて開発されました。前後の構造は、前車が牽引し、それに後車が付随する形で成り立っており、前車には九四式軽装甲車が用いられました。これにより、一般的に使用されていた弾薬輸送用の九四式三/四屯被牽引車の代わりに、毒ガス撒布用の後車を牽引することが可能となります。

乗員は前車に2名搭乗し、分隊長は毒ガスの撒布や機関銃の操作を担当し、もう一名が操縦士として車両を運転します。後車は無人で、厚さ3～4mmの装甲で覆われています。

仕様と能力

九四式甲号撒車は、毒ガスの薬液を搭載する能力を持ち、具体的には「きい1号」と呼ばれるマスタードガスの一種を270リットル（約343kg）まで搭載できるようになっていました。この量は、戦場速度が10km/hの場合、約8メートル幅で1000メートルの範囲（約8000平方メートル）を覆うことができるのです。ガスは約6分間の標準流出時間を持ち、効果的な撒布が行えました。

九四式甲号撒車は、野戦瓦斯（ガス）中隊などの機械化された化学戦部隊に配備されており、例えば甲編制の中隊では定数で10両が充てられていました。

実戦での使用

実際の戦闘においては、九四式甲号撒車は時折、通常の装甲車としても使用されました。特に日中戦争の初期には、装甲車両としての役割が中心であったと言われています。化学戦の実例としては、1938年に発生した上窯川渡河戦が挙げられます。この戦闘では、森田豊秋少佐が指揮する「か号部隊」に属する車両が、特種煙を展開したことが記録されています。ただし、法的なガス製品とは異なり、「赤筒」と呼ばれる発煙筒が使用されたため、九四式甲号撒車の特有の構造がどう活用されたかは不明です。

戦後の状況

太平洋戦争の終了後、残存していた後車の1両は大宮駐屯地にて展示されていましたが、1980年代後半には不明な理由で廃棄されました。また、ロシアのクビンカ戦車博物館には後車の1両が現在も展示されている点が挙げられます。

さらに、日本陸軍には他に同様の撒毒機能を備えた装甲車両が存在しましたが、その運用や訓練はほとんど行われず、生産後期の型ではこれらの機能が廃止されることとなりました。

九四式甲号消車

九四式甲号消車（94しきこうごうしょうしゃ）は、後車を化学兵器の中和・消毒に用いるさらし粉の撒布車両に改造したものです。装備しているさらし粉は約560kgまで搭載可能で、4メートル幅、700メートルの範囲を消毒できる能力を持っています。この消車も化学戦部隊に配備され、野戦瓦斯中隊（甲）でも同様に10両が定数として含まれていました。

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