乱灯江戸影絵

乱灯江戸影絵

松本清張の『乱灯江戸影絵』は、享保年間を背景にした長編時代小説であり、1963年から1964年にかけて『朝日新聞』夕刊に連載されていました。本作は、目安箱への怪しい上書きを発端にし、その結果起こる連続殺人事件を中心に展開されていきます。

あらすじ

物語は享保11年4月、将軍徳川吉宗が目安箱に投函された浪人・岩瀬又兵衛の上書きに驚愕することから始まります。上書きの内容が老中や三奉行に関係すると思った吉宗は、江戸町奉行の大岡忠相にその差出人を調査するよう指示します。その後、南町奉行の香月弥作が隠密に捜査を行うことになります。

弥作は岡っ引の藤兵衛と共に調査に取り組み、消失した釣り友達の山下幸内や、奇妙な鍼医者の黒坂江南、さらには百姓の水死など、数多くの不審な出来事に遭遇します。そんな中、江戸城庭番の青木文十郎も自ら密命を受け、越前に潜入し、一連の事件に関与する人々の背景を探ることになります。

ある日、江戸で殺人事件が発生し、尼僧の安寿が亡くなりました。彼女は吉宗の長男である家重に縁のある家の人間でした。その事件に関連して浮浪者の幸太が逮捕されるものの、弥作は彼の無実を確信し、さらなる真相を追求します。現場での発見や文十郎の越前での活動が次第に事件の解明へと繋がっていくのです。

忠相は事件の背後に大久保家が関与していることに気づき、江南が越前にかかわりがあることを推測します。そして、事件の収束に向けて吉宗の意を汲む忠相の働きが功を奏し、権力関係の対立が明らかになります。事件が解決した後、弥作は過去の出来事を振り返り、名奉行であるがゆえの思いやりや、複雑な人間関係に苦悩した様を描写します。

主な登場人物

• - 大岡忠相: 江戸町奉行で名奉行と評判。市民の信頼を得ている。
• - 香月弥作: 南町奉行所の同心で、事件を追う青年。
• - 藤兵衛: 弥作の部下の熟練岡っ引。
• - 青木文十郎: 徳川吉宗の庭番で、絵に造詣が深い。
• - 幸太: 尼僧殺人事件の容疑者として逮捕される浮浪者。
• - 大久保政忠: 吉宗の長男・家重に関係する人物。

物語のテーマ

本作は、権力の中での人間模様や、正義感に燃える若者が直面する厳しい現実などを描いており、弥作の成長とともに権力の本質を問う内容となっています。また、松本清張は物語を通じて、権力が若者をどのように利用し、また犠牲にしていくかを描写しています。

評価

この長編時代小説は、単なる事件の解決にとどまらず、人間の内面と権力構造の複雑な絡みを巧みに描き出しています。松本清張独特の視点によって、江戸時代の社会背景が生き生きと描写され、読者を引き込む魅力を持っています。

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