亀田弘行

亀田 弘行（かめだ ひろゆき）

人物概要

日本の学術界において、防災学、特に地震防災分野に顕著な足跡を残したのが、亀田弘行（1939年 - 2023年）です。京都大学名誉教授として長年にわたり教鞭を執り、また地域安全学会の会長も務めるなど、研究と学会活動の両面から日本の災害対策の進展に貢献しました。大阪府大阪市に生を受け、土木工学の専門知識を基盤としつつ、大規模自然災害に強い社会システムの構築を目指した研究を精力的に展開しました。

経歴と学術活動

亀田弘行氏は、1963年に京都大学工学部土木工学科を卒業しました。さらに学びを深めるため、同大学大学院工学研究科の修士課程土木工学専攻に進み、1965年にこれを修了。その後も研究を続け、1968年には同博士課程を単位取得退学しました。この年、母校である京都大学工学部に助教授として着任し、教育・研究者としてのキャリアをスタートさせます。その研究成果が認められ、1971年には京都大学より工学博士の学位を授与されました。

京都大学では、土木構造物の安全性評価や地震時の挙動解析といった研究に加え、都市機能や社会システム全体の災害に対する脆弱性とそのレジリエンス向上に関する研究に力を注ぎました。特に、1986年に京都大学防災研究所の教授に就任してからは、大規模地震災害に対する社会の備えという喫緊の課題に対し、工学的知見からのアプローチを深めました。防災研究所は、地震、津波、風水害など多様な自然災害に関する総合的な研究を行う機関であり、ここで亀田氏は地震防災研究の重要な役割を担いました。

学外においても、日本の防災研究コミュニティの中心的な存在として活動しました。1995年には、地域社会の安全確保と災害による被害軽減を目指す研究を推進する地域安全学会の会長に就任。同学会のリーダーとして、学術交流の促進や政策提言などに尽力しました。また、国の重要な研究プロジェクトにも深く関与し、1998年には理化学研究所に設立された地震防災フロンティア研究センターのセンター長を務めました。このセンターは、阪神・淡路大震災を契機とした大規模地震研究の推進のために設立されたものであり、最先端の地震研究を主導しました。同センターが2001年に防災科学技術研究所に移管された後も、引き続きセンター長を務め、日本の地震防災研究体制の強化に貢献しました。

2004年、長年にわたる京都大学での教育・研究活動を終え、定年退職。その功績を称えられ、京都大学名誉教授の称号が贈られました。

貢献と栄誉

亀田弘行氏の研究は、構造物の耐震性評価から都市全体の災害リスク管理、そして社会システムのレジリエンスという広範な領域に及びました。特に、確率論的な手法を用いた構造信頼性理論や、地震ハザード評価に関する研究は、日本の耐震設計基準や防災計画策定に科学的な根拠を提供しました。また、大規模災害発生時の社会経済活動への影響を分析し、より迅速かつ効果的な復旧・復興に向けた提言も行いました。

これらの学術的貢献と、防災分野における指導者としての長年の功労が広く認められ、2019年には瑞宝中綬章を受章しました。これは、公務または公共的な業務に長年従事し、国家または公共に対し功労があった人物に授与される栄典です。

2023年6月6日、83歳で逝去されました。その卓越した学術的功績と日本の防災対策への多大な貢献に対し、没日付をもって正四位に追叙されました。正四位は、日本の位階において高位の一つであり、国家への顕著な功績が没後に改めて認められたことを示します。

主な編著

亀田氏は専門分野に関する重要な著作も数多く手掛けました。

『新鉄道システム工学』山海堂 1984年
『鉄道事例にみる土木構造物の診断』山海堂 1990年

これらの書籍は、鉄道構造物のシステム工学的なアプローチや、既存構造物の診断技術といった、土木工学の応用分野における深い専門知識を体系的にまとめたものであり、関連分野の研究者や実務家にとって今なお貴重な参考資料となっています。

亀田弘行氏の生涯は、日本の防災学の発展と社会の安全向上に捧げられました。その研究成果と教育者としての情熱は、多くの後進に引き継がれ、今後の災害対策の基盤として活かされていくことでしょう。

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