予備艦隊

予備艦隊とは

予備艦隊（豫備艦隊、英語：reserve fleet）とは、海軍が一時的に運用から外し、将来的な再活用や最終的な処分に備えて保管する艦艇群を指します。運用を終了した艦艇や、戦略的な理由から一時的に現役の任務から外された艦船などが含まれます。

これらの艦艇群、あるいは艦船が保管されている状態は、非公式には「モスボール（in mothballs）」と呼ばれたり、艦船が「モスボール状態にある」と表現されたりすることが多くあります。特にアメリカ海軍では、「幽霊艦隊（ghost fleet）」という異名で知られています。また、かつてイギリス海軍などで用いられた、やや古い表現に「通常係留（laid up in ordinary）」があり、同様の状態を指すことがあります。

保管と維持管理

予備艦隊は、将来的に再び現役として活用される可能性があると判断された艦船で構成されるのが一般的です。再就役のプロセスを効率的に進められるよう、通常は海軍基地や海軍工廠の施設内に停泊しています。

長期保管に耐えられるよう、徹底した維持管理が行われます。特に船体や機器の錆を防ぐため、デシカントによる除湿や開口部の密閉など、いわゆるモスボール処理が施されることが通例です。

こうした艦船が再び航行可能であることを保証し、また定期的な点検や主要機器の動作確認を行うため、最低限の維持管理要員が配置されるのが一般的です。アメリカ海軍では、「幽霊艦隊」という俗称にちなんで、これらの維持管理要員を「骸骨船員（skeleton crew）」と呼ぶことがあります。

多くの海軍では、予備艦隊の艦船に合わせて、将来の再就役時に必要となる予備の兵装や機器なども保管しています。しかし、艦船本体と同様に、これらの装備品もしばしば長期保管中に腐食が進んだり、技術的な陳腐化によって実用に適さなくなったりするケースが見られます。

多様な最終処分

しかし現実には、運用を終えた艦船は技術革新によって比較的短期間で旧式化してしまうため、現役への復帰は稀なケースです。多くの予備艦隊所属艦は、最終的に解体される運命をたどります。

解体以外にも、兵器実験の標的艦として利用されたり、友好国や民間に売却されたり、あるいは博物館船として保存されたり、環境保護の目的で人工魚礁として海中に沈められたりするなど、多様な方法でその生涯を終えます。一旦予備艦隊に編入された後、改めて売却や解体といった処分が決定されることもあります。

近年では、アメリカ海軍が退役空母「オリスカニー」などを人工魚礁として転用した例のように、予備艦隊の艦船を環境保護や観光資源として活用する試みも行われています。また、アメリカの国防予備艦隊のように、他の現役艦船の維持に必要な部品供給源として利用されるケースも少なくありません。必要に応じて、予備艦隊の艦船から機器や装備が取り外され、活用されています。

特別な価値を持つ鋼材

特に第二次世界大戦以前に建造された艦船に使用されている鉄鋼には、現代の鉄鋼にはない特別な価値が見出されています。これは「低バックグラウンド鋼（Low-background steel）」と呼ばれ、冷戦以降の核実験による放射性降下物の影響を受けていないため、自然界の放射線レベルが非常に低いという特性を持っています。そのため、高精度な測定が要求される実験物理学の分野において、貴重な放射線遮蔽材として再利用されています。

環境への影響

一方で、予備艦隊として長期保管されている艦船や、人工魚礁などに転用された艦船が、環境に悪影響を与える可能性も指摘されています。特に、船体に使用されている塗料や油類などに含まれる有毒物質が、時間とともに溶け出し、海洋汚染を引き起こす懸念があります。

例えば2007年には、アメリカの国防予備艦隊に所属する艦船から鉛含有塗料が剥がれ落ち、周辺海域を汚染しているとして、複数の環境保護団体が強い抗議活動を行いました。これを受けて、アメリカ連邦海事局は予備艦隊所属艦の数を削減する方針を発表し、約50隻を対象に処分を進めました。2012年までにそのうちの25隻が処分され、残りの艦船も2017年までに処分が完了したとされています。

もう一度検索