事業継続計画

事業継続計画（BCP）とは

事業継続計画（BCP: Business Continuity Planning）とは、地震や水害、パンデミックなどの緊急事態が発生した際に、企業が損害を最小限に抑え、事業の継続や早期復旧を図るための計画です。BCPは、単に事業を継続するだけでなく、安全に事業を停止し、迅速に復旧させることも目的としています。

BCPと類似の用語

コンティンジェンシープラン（緊急時対応計画）：非常事態発生時の初動対応に重点を置いた計画です。BCPよりも緊急時の初期段階の対応に特化しています。
事業継続マネジメント（BCM: Business Continuity Management）：BCPの策定、運用、継続的な改善活動を指します。BCMは、BCPをより効果的に機能させるための包括的な取り組みです。
事業継続と復旧計画（BCRP: Business Continuity & Resiliency Planning）：BCPと同様の概念で、事業の継続と回復力（レジリエンス）の強化を目指します。

BCPの目的

BCPは、以下の目的を達成するために策定されます。

事業の中断を最小限に抑える：災害時でも重要な業務を継続できるように対策を講じます。
早期復旧：事業停止した場合でも、速やかに通常業務を再開できるように計画します。
損害の軽減：災害による損害を最小限に抑え、企業全体の損失を軽減します。
レジリエンスの強化：緊急事態に対する企業の回復力（レジリエンス）を高めます。

BCPの対象となる事象

BCPは、以下のような事業運営に悪影響を与える可能性のある事象を対象とします。

サプライチェーンの途絶：原材料や製品の供給が滞る状況
重要なインフラの損失・損傷：機械装置、コンピューター、ネットワークなどのシステム停止
自然災害：地震、水害、台風などの自然現象
人為的な災害：テロ、事故、火災など
感染症の流行：パンデミックなど

BCPにおけるレジリエンス

レジリエンスとは、危機的な状況から回復する力のことです。BCPにおけるレジリエンスは、以下の要素を含みます。

予防：危機が発生する前に、リスクを軽減するための対策を講じます。
備え：危機発生時に対応できるよう、計画や訓練を実施します。
対応：実際に危機が発生した際に、計画に基づき迅速に対応します。
復旧：危機の影響から回復し、事業を再開します。

レジリエンス理論

パデュー大学のブライアン・ラムコミュニケーション大学院教授であるパトリスM.ブザネルの研究によると、レジリエンスを維持するために個人が用いる5つのプロセスがあります。

1. 正常を作る：危機発生後も、できるだけ通常の生活や業務を維持しようとします。
2. アイデンティティアンカーの確認：自分自身や組織のアイデンティティを再確認し、安定を保ちます。
3. 通信ネットワークの維持と使用：情報共有やコミュニケーションを継続し、孤立を防ぎます。
4. 代替ロジックの機能：通常とは異なる状況に対応できるよう、柔軟な思考で代替案を検討します。
5. 否定的感情の隠蔽と肯定的感情の露呈：ネガティブな感情を抑え、ポジティブな感情を共有することで、士気を高めます。

事業継続性とは

事業継続性とは、BCPとディザスタリカバリを適切に実施することで得られる状態です。事業継続性を保つためには、以下の要素が重要です。

予備のマシンやサーバー：バックアップ体制を整え、システム停止時にも業務を継続できるようにします。
データのバックアップ：定期的にデータをバックアップし、データ損失を防ぎます。
責任者の明確化：緊急時における指揮系統を明確にし、迅速な意思決定を可能にします。
訓練の実施：BCPに基づいた訓練を定期的に行い、緊急時の対応力を高めます。
従業員の教育：従業員にBCPの内容を周知し、緊急時の行動を理解させます。

BCPの方法論とマニュアル

経済産業省や厚生労働省は、BCPを以下の4つのフェーズに分類しています。

1. BCP発動フェーズ：災害発生直後にBCPを発動し、初期対応を行います。
2. 業務再開フェーズ：停止した業務を再開するための準備を開始します。
3. 業務回復フェーズ：業務を通常のレベルに戻すための措置を実施します。
4. 全面復旧フェーズ：事業を完全に復旧させ、通常状態に戻します。

BCPマニュアル

BCPマニュアルは、以下の要素を含むべきです。

事業影響分析（BIA）：災害が事業に与える影響を分析し、優先順位をつけます。
リスク識別マトリックス：起こりうるリスクを特定し、評価します。
役割と責任：緊急時における各担当者の役割と責任を明確にします。
最大リスクと緩和戦略：最も大きなリスクとその対応策をまとめます。
資源配置：必要な資源（人員、設備、資金など）を適切に配置します。

BCPの分析

BCP策定における分析フェーズでは、以下の要素を検討します。

影響分析（BIA: Business Impact Analysis）

事業に対する災害の影響を分析します。具体的には、以下の指標を用いて影響度を数値化します。

RPO（Recovery Point Objective）：目標復旧時点。災害発生前のどの時点までデータを復旧させるかの目標値。
RTO（Recovery Time Objective）：目標復旧時間。災害発生後、業務を再開させるまでの目標時間。
RLO（Recovery Level Objective）：目標復旧レベル。どのレベルまで業務を復旧させるかの目標値。
MTPD（Maximum Tolerable Period of Disruption）：最大許容停止時間。業務停止を許容できる最大時間。

脅威分析

災害の原因となる可能性のある脅威を特定します。一般的な脅威には、以下のようなものがあります。

自然災害：地震、水害、台風など
人為的災害：テロ、事故、火災など
技術的障害：システム障害、ネットワーク障害など
サプライチェーンの途絶：サプライヤーの災害、輸送障害など

影響シナリオの定義

特定された脅威をもとに、具体的な影響シナリオを作成します。例えば、「ビルが使用不能になった場合」、「データセンターが停止した場合」などのシナリオを想定します。

復旧要求ドキュメント

分析結果に基づいて、事業継続に必要なリソース、復旧手順、技術要件などを文書化します。

BCPのソリューション設計

影響分析の結果に基づいて、最もコスト効果の高い復旧ソリューションを設計します。このフェーズでは、以下の要素を決定します。

危機管理コマンド構造：緊急時における指揮系統を明確にします。
2次作業サイト：必要に応じて、代替の作業場所を確保します。
通信アーキテクチャ：1次サイトと2次サイト間の通信を確保します。
データ複製方法：データのバックアップと復旧方法を確立します。
必要なアプリケーションとソフトウェア：2次サイトで必要なシステムを準備します。
物理的データ要求：紙媒体の資料が必要な場合、保管場所と取り出し手順を決めます。

BCPの実装

ソリューション設計フェーズで決定した内容を実行に移します。必要な設備やシステムの導入、人員の配置、訓練の実施などを行います。

BCPのテストと組織的受入

実装したBCPが効果的に機能するかどうかをテストします。テストには以下の3つの種類があります。

単純試験（デスクトップテスト）：少人数で、BCPの特定の部分を机上で検証します。
中間試験：複数の部門やチームが連携し、BCPの実行可能性を検証します。
複合試験：実際に災害が発生した状況を想定し、BCPの全体的な有効性を検証します。

BCPの維持

BCPは定期的に見直し、更新する必要があります。以下の活動を行います。

情報の確認と更新：連絡先、担当者、手順書などの情報を定期的に確認し、最新の状態に保ちます。
技術ソリューションのテスト：導入したシステムの機能や可用性を定期的にテストします。
組織復旧手順のテスト：文書化された復旧手順が有効かどうかを定期的にテストします。

BCPのロジスティクス計画

BCPにおけるロジスティクス計画とは、災害時に事業を継続するための物資や資源の確保計画です。

事業継続マネジメント：BCPを策定、運用、訓練、改善する取り組み全体を指します。

BCPの歴史

2000年問題：コンピューターシステムの誤作動への懸念から、BCPへの関心が高まりました。
アメリカ同時多発テロ事件：この事件をきっかけに、BCPの重要性が再認識されました。
民間緊急事態法2004：イギリスでは、この法律によって事業継続計画の策定が義務付けられました。
BS 25999：BCPに関する国際標準規格が発行され、BCPの導入が進みました。

災害対応に深く関わる事業におけるBCP

災害対応に深く関わる事業においては、通常の事業継続に加えて、災害発生直後に必要となる応急業務への対応が重要になります。例えば、建設業においては、救助活動への協力、被災した建物の状況確認、瓦礫の撤去などが含まれます。

応急業務の例

市町村：地域防災計画に基づく災害応急対策、災害復旧・復興業務
建設業：救助活動、建物状況確認、インフラ復旧工事
介護施設：利用者の安全確保、生活維持、地域貢献
* 病院：入院患者の安全確保、被災者への医療提供

まとめ

事業継続計画（BCP）は、緊急事態発生時において、企業の事業継続と早期復旧を実現するための重要な計画です。BCPを適切に策定し、運用することで、企業は不測の事態に強く、持続可能な成長を遂げることができます。

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