二つの祖国

『二つの祖国』

『二つの祖国』は、戦争の影響を受けた日系アメリカ人の姿を描いた、山崎豊子の小説である。物語は、真珠湾攻撃から東京裁判の期間を背景に、日系二世の主人公が直面する複雑なアイデンティティの葛藤を中心に展開される。本作は、300人以上の実在する人物へのインタビューや、豊富な資料をもとに5年をかけて執筆された。

概要

主人公は、ロサンゼルス生まれの日系二世、天羽賢治である。彼は、アメリカと日本、二つの文化の間で揺れ動きながら、自らのアイデンティティを模索する。太平洋戦争という激動の時代に、賢治は日本語新聞社で記者として活動していたが、日米開戦を迎え、家族が強制収容される運命に直面する。賢治は、どちらの国に忠誠を誓うべきか、自らの立場に苦悩し、最終的には語学兵として戦場へ赴くことを決意する。

物語には、日系人がアメリカ社会で直面した強制収容や忠誠のテスト、日系語学兵の活躍など、これまであまり知られていなかった歴史的事実が盛り込まれており、現実の厳しさと苦悩が描写される。こうした視点から、日系コミュニティの悲劇が描かれ、多くの読者に深い感動を与えた。

『二つの祖国』は、1980年から1983年にかけて『週刊新潮』に連載され、1983年には全3巻として刊行された。特に記憶に残るのは、1984年にNHKで放送された大河ドラマ『山河燃ゆ』で、これにより日系人に対する関心が高まる一方で、在米日系人からは原作に対する反発も見られた。タイトル変更やドラマ化に際する反響は、日系アメリカ人のアイデンティティや歴史を考えるきっかけとなった。

あらすじ

物語は、アメリカのロスアンゼルスで生まれ育った天羽賢治の青年時代から始まる。彼は日本で大学を過ごした後、ロスアンゼルスの「加州新報」で記者として働いていた。しかし、日米開戦が彼の人生を一変させる。賢治は、強制収容所に送られる家族の姿を目の当たりにしながら、日本の文化とアメリカの文化との間でのアイデンティティの危機に直面する。そして、彼は語学兵として戦争に参加する道を選び、複雑な思いを抱えながら戦地へ向かう玄関口へと進む。

日本の敗戦後、賢治は極東国際軍事裁判に言語モニターとして参加し、そこで自らの経験と胸の内を確かめることになる。しかし、彼の苦悩は終わらず、自らの運命に翻弄される姿が描かれている。

登場人物

• - 天羽賢治（ケーン）: 主人公。日系2世の記者であり、家族が強制収容される中でアイデンティティを模索する。
• - 天羽エミー（恵美子）: 賢治の妻。アメリカで育った日系2世だが、賢治との間に部分的な隔たりを抱える。
• - チャーリー田宮: 賢治の親友。アメリカ社会で成功を目指す野心家。
• - 井本梛子: 賢治の同僚で恋人。厳しい運命に翻弄される。

書誌情報

この小説は、刊行以来度々文庫として再版され続けている。また、山崎豊子の戦争に関する代表作として、多くの読者に愛されている。さらに、テレビドラマ化もされ、多方面からの注目を集めた作品である。

『二つの祖国』は、戦争に翻弄された人々のリアルな背景を伝え、今なお多くの人々に考えるきっかけを提供する、歴史小説の名作と言えるだろう。

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