二出川延明

二出川延明：ルールブックを体現した男

二出川延明（1901年8月31日 - 1989年10月16日）は、日本のプロ野球史にその名を刻んだ、稀代の選手にして審判員である。兵庫県出身。明治大学、京阪電気鉄道を経て、プロ野球の世界に飛び込み、選手、監督、そして審判員として活躍。その卓越した審判ぶりと、時に厳しく、時にユーモラスな語り口で知られ、「俺がルールブックだ」という名言は、今もなお語り継がれている。

明治大学時代：審判制度への改革意識

明治大学在学中は、前身の五大学リーグを含め62試合に出場。打率.222と、華々しい活躍とは言い難い成績だったものの、当時、学生同士が審判を務めるリーグ戦の未熟な審判制度に疑問を抱くようになる。この経験が、後に彼の審判としての道を決定づける大きな転機となる。正確なルール理解の必要性を痛感した二出川は、徹底したルール学習に励んだ。同期の証言によれば、毎朝後輩に野球ルールの難問を出し、理解を深めさせたというエピソードも残っている。

プロ野球選手としてのキャリア：移籍劇と選手兼任監督

明治大学卒業後、京阪電気鉄道に入社。クラブチームや京阪電気鉄道野球部でプレーした後、和歌山県立向陽高等学校（当時、海草中学）の監督に就任。甲子園出場に導き、決勝進出を果たすも準優勝に終わった。その後、大日本東京野球倶楽部（後の巨人軍）へ移籍。初代背番号1を背負い、アメリカ遠征にも参加するなど、選手として、そして副将としてチームに貢献した。その後、名古屋金鯱軍へ移籍。選手兼任監督として手腕を発揮するが、間もなく選手を引退、審判へと転身する。

審判員としての活躍：「俺がルールブックだ」の真実

1950年、パシフィック・リーグの審判員となり、1960年には審判部長に就任。彼の審判ぶりは、厳格さと同時に、独特のユーモアも持ち合わせていた。有名な「俺がルールブックだ」という発言は、1959年、西鉄との試合での出来事。ルールブックを自宅に忘れていたにもかかわらず、三原監督の抗議に対し、この言葉を放った。この言葉は、彼の揺るぎない信念と、野球に対する深い理解を示す象徴的な出来事として、広く知られるようになった。しかし、関係者の証言によると、この言葉は若干誇張された表現だった可能性もある。

他にも、ストライクをボールと判定し「気持ちが入ってないからボールだ」と発言したり、新聞の写真を見て「写真が間違っている」と冗談を飛ばしたりするなど、数々の逸話が伝えられている。これらのエピソードからは、彼の型にはまらない個性と、プロ意識の高さが見て取れる。

戦前プロ野球における「退場」と「ボールカウント間違い」

戦前のプロ野球において、二出川は日本プロ野球史上初の「退場」宣告（当時は「着席」）を行った審判員としても知られる。選手からの抗議に対して、毅然とした態度で対応する姿は、彼の審判としての厳格さを象徴している。また、ボールカウントの間違いにより、日本プロ野球史上初の三重盗塁を記録してしまうという、珍しい出来事も経験している。

野球殿堂入りとその後

1970年には野球殿堂入りを果たし、その功績は高く評価されている。審判引退後も、野球界に貢献し続け、娘である高千穂ひづると共に、事業に携わった。1989年、肺炎のため88歳で死去。

二出川延明は、選手、監督、そして審判員として、プロ野球の発展に貢献した重要な人物である。彼の生き様と、数々のエピソードは、後世の野球人にとって貴重な教訓となるだろう。その名前は、日本のプロ野球の歴史に永遠に刻まれるであろう。

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