二十の扉

日本の放送史において、国民的な人気を博した伝説的なクイズ番組が『二十の扉』です。1947年 11月1日、NHKラジオ第1放送でその歴史が始まり、1960年 4月2日まで毎週土曜日の夜に30分間放送されました。特に、1953年から1955年にかけては、NHK総合テレビジョンでの同時放送も行われ、ラジオでの人気をテレビへ引き継ぐ先駆け的な番組となりました。

番組はNHK第1スタジオでの公開形式で収録され、多くの観客が見守る中で進行しました。1948年にNHK放送文化研究所が聴取率調査を開始して以降、幾度となくそのトップに立つなど、社会現象とも呼べるほどの絶大な人気を誇りました。番組が生んだ流行語として特に知られるのが、司会者の名セリフ「ご名答」です。

番組の成り立ちと特徴

『二十の扉』は、アメリカで放送されていた同種のクイズ番組『Twenty Questions』をモデルとして、当時の占領軍総司令部（CIE）の指導のもと企画・制作されました。1947年から12年間にわたり、全538回が放送される長寿番組となりました。

番組製作にあたっては、日本独自の様々な工夫が凝らされました。例えば、「Questions」を物理的な「扉」に見立て、一つずつ扉を開けていくイメージで進行させる演出が採用されました。番組開始時にはテーマ曲を使わず、扉をノックして開ける効果音で始まるというユニークな演出も特徴的でした。

初代司会は、社会派番組での実績が評価され、CIEの担当者によって抜擢されたアナウンサーの藤倉修一が務めました。藤倉は約6年間司会を務めましたが、BBCへの出向に伴い降板。その後は長島金吾が司会を引き継ぎました。

レギュラー解答者は、芸能人だけでなく、知性とセンスを兼ね備えた人物がCIEによる直接面接を経て選ばれました。初期のレギュラーメンバーには、塙長一郎、大下宇陀児、宮田重雄、柴田早苗といった面々が名を連ねていました。

問題形式と番組進行

番組で出題される問題は、すべて一般の聴取者から投稿されたものが採用されました。その投稿数は驚異的で、放送開始から約10ヶ月後には140万通以上が集まり、一日で2万通に達したこともあったと記録されています。俳人の志賀直哉のような著名人からの投稿もあり、その出題内容も多岐にわたりました。

ルールはシンプルながらも奥深いものでした。レギュラー解答者4名に、週替わりのゲスト解答者1名を加えた合計5名の解答者が、司会者との質疑応答形式で正解を目指します。出題対象は「動物」「植物」「鉱物」のいずれかのジャンルに分類されますが、「国民諸君」（動物）、「ふんどしの紐」（植物）、「台風の目」（鉱物）といった、常識にとらわれない難問珍問も登場しました。

解答者には、まず正解のジャンルのみが司会者から告げられます。正解自体は、解答者からは見えない場所に掲示され、観客や聴取者には「影の声」によって事前に知らされます。解答者は「それは食べられますか？」「それは丸いものですか？」などの質問を司会者に投げかけ、その答えをヒントに推理を進めます。許される質問の数は最大20問。その数以内に正解を導き出すことができれば「ご名答」となるわけです。

観客・聴取者の楽しみ方と「ゲスト大会」

すでに正解を知っている観客や聴取者にとって、『二十の扉』は解答者たちがどのように推理し、正解へとたどり着くかという過程を見守る楽しみがありました。解答者が正解に近づく鋭い質問をすると会場から拍手が起こり、惜しい質問や見当違いの質問が出るとため息が漏れるといった、観客の生きた反応もまた番組の一部でした。解答者たちは、司会者の返答だけでなく、観客のこうした反応を暗黙のヒントとして活用することもあったようです。

通常のレギュラー放送に加え、「ゲスト大会」も頻繁に開催されました。歌舞伎役者、政治家、落語家、文壇関係者（川端康成、武者小路実篤ら）、外国人など、普段クイズ番組に縁のなさそうな各界の著名人がゲストとして登場しました。ルールは通常回と同じでしたが、ゲスト解答者たちが一生懸命に考える姿や、その意外な一面が見られることが魅力となり、レギュラー回とは一味違った盛り上がりを見せました。聴取者は、ラジオから聞こえる声を通して、ゲスト解答者が苦心して答えを導き出す様子を想像するという、この番組ならではの楽しみ方もしていました。

『二十の扉』は、その画期的な形式と国民的な人気により、日本の放送文化に大きな足跡を残した番組と言えるでしょう。

（参考文献や脚注、関連項目などは割愛します）

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