二百二十日

二百二十日（にひゃくはつか）は、日本の暦に古くから伝わる「雑節（ざっせつ）」の一つです。雑節とは、二十四節気や五節句といった公の暦とは別に、日本の気候風土や農作業に合わせて、経験的に加えられた季節の節目を指します。二百二十日は、春の始まりとされる「立春」の日を「第一日目」と数え始めて、そこからちょうど満219日を経過した、すなわち数え方で「二百二十日目」にあたる日と定められています。

この二百二十日が具体的にいつになるかは、起算日である立春の日付に依存しますが、近年（21世紀初頭）においては、多くの年で9月11日となります。ただし、閏年（うるうどし）の影響や、立春が年によってわずかに変動することもあるため、平年であれば9月11日、閏年であれば9月10日となることが一般的ですが、数十年のスパンで見ると9月12日となる年もあり得ます。日付は固定されているわけではなく、その年の立春を基準に毎年算出されるものです。

二百二十日は、特に農業を営む人々にとって古くから重要な意味を持つ日とされてきました。かつては「八朔（はっさく）」（旧暦8月1日、現在のグレゴリオ暦では9月上旬頃）や「二百十日（にひゃくとおか）」（立春から210日目、9月1日頃）と並んで、「農家の三大厄日」の一つに数えられてきました。これは、この時期が稲の収穫を目前にした大切な時期でありながら、同時に大型の台風が襲来するなど、天候が非常に荒れやすく、大きな自然災害によって一年間の苦労が水泡に帰してしまう危険性が高いことから、最大限の警戒が必要とされる日だったためです。

歴史的な経験則として警戒されてきたこれらの厄日ですが、近年の気象統計データからも、その背景にある気候的な傾向がうかがえます。特に二百十日から二百二十日にかけての時期、すなわち9月上旬から中旬にかけては、夏の太平洋高気圧が次第に勢力を弱め、北からの冷たい空気と南からの暖かい空気がぶつかって秋雨前線が形成されやすくなります。この前線活動と、まだ海水温が高い南の海域で発生・発達した台風が、日本列島に向かってくるタイミングが重なりやすいため、大型の台風が接近・上陸するリスクが高まる時期とされています。

興味深いのは、農家の経験則として三大厄日が挙げられてきた中でも、統計的には二百十日（9月1日頃）よりも二百二十日（9月10日頃）以降、特に9月中旬にかけての方が、日本への台風襲来がより頻繁になる傾向が見られるという指摘があることです。このため、現代においては、単に二百十日や二百二十日という日付だけでなく、9月全体、特に中旬にかけてを、秋の収穫を守るための台風対策として、特に注意が必要な期間として認識されています。

二百二十日は、単なる暦上の日付というだけでなく、日本の季節の移り変わり、特に秋の気配が深まる時期を示す目安であり、同時に過去から現在まで続く、自然の脅威に対する備えを促す知恵として、その意義を持ち続けていると言えるでしょう。農家だけでなく、多くの人々が気象情報に注意を払い、防災意識を高めるべき時期として、現代でもその名が語り継がれています。

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