二股トンネル

二股隧道（ふたまたずいどう）

岐阜県加茂郡八百津町南戸、急峻な山間部を縫うように走る国道418号上に、ひっそりとその姿を留めるトンネルが「二股隧道（ふたまたずいどう）」です。この隧道は、特定の条件下でなければ容易に近づくことすら叶わない、いわゆる“酷道”区間に存在する構造物として知られています。

構造と特徴

二股隧道の内部は直線ではなく、緩やかなカーブを描いています。照明設備は一切備わっておらず、昼間でも内部は深い闇に包まれています。さらに、このトンネルの独特な点として、坑内でトンネルの全幅および全高が変化する構造となっていることが挙げられます。これは、建設当時の技術や地形的な制約を反映したものと考えられます。素掘りに近い荒々しい内部は、現代のトンネルとは一線を画す、建設当時の面影を強く残しています。

現状とアクセス

この二股隧道の最大の特徴の一つは、その前後の区間が国道418号の中でも特に「通行不能区間」または「通行止区間」として指定されていることにあります。道路状況が極めて悪く、落石や路盤崩落のリスク、そして狭隘な道幅などにより、車両はもちろんのこと、徒歩での通行も困難かつ非常に危険を伴います。そのため、通常の方法でこの二股隧道に接近することは事実上不可能であり、到達するためには特別な装備や覚悟が必要となる場所となっています。アクセスが困難であることは、結果としてこのトンネルが開発や改修から取り残され、古の姿をそのままに留める一因ともなっています。

歴史的背景

トンネルの坑口に設置された銘板からは、その建設時期と当時の路線名を知ることができます。銘板には上部に「二股隧道」と記され、右側には「縣道日吉八百津線」、左側には「昭和三十一年五月竣工」と刻まれています。これは、西暦1956年（昭和31年）5月に完成したことを示しており、戦後の比較的早い時期に建設された土木構造物であることがわかります。当時の「縣道日吉八百津線」は、現在の国道418号の一部を含む重要な地方道であったと考えられます。この竣工年は、参考文献として挙げられている『丸山発電所工事誌』（1956年刊行）の時期とも重なり、周辺のインフラ整備と関連して建設された可能性を示唆しています。

周辺環境と将来

二股隧道の周辺は、雄大な木曽川の渓谷美が広がる深沢峡に位置しています。近隣には、丸山ダムや、五月橋、旅足橋といった歴史のある橋梁など、木曽川に関連する構造物や景勝地が点在しています。しかし、この二股隧道は、木曽川の下流で現在建設が進められている新丸山ダムの完成に伴い、その運命が大きく変わろうとしています。新ダムの貯水位が上昇することにより、二股隧道が位置する標高の地域は将来的にダム湖の底に沈むことが計画されており、このトンネルはいずれ水没し、その姿を完全に消すことになります。

関連事項

二股隧道は、日本有数の「酷道」として知られる国道418号の一部を構成しています。国道418号は長野県飯田市から福井県大野市に至る長大な路線ですが、特に岐阜県内のこの周辺区間は、交通の難所としてその名が知られており、二股隧道はその象徴的な存在の一つと言えます。

今後、新丸山ダム完成によって水没する予定であることから、二股隧道は貴重な土木遺産として、その存在意義が改めて問われることになるでしょう。人が容易に近づけない場所にありながらも、その歴史的価値や特異な現状から、一部の愛好家や研究者にとっては注目すべき対象となっています。

（参考文献として『丸山発電所工事誌』関西電力株式会社, 1956年などが挙げられます。）

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