二階 (松本清張)

二階

松本清張が1958年に発表した短編小説『二階』は、心理的な緊張感を巧みに描写した作品です。この物語は、現代の生活における人間関係の複雑さと、それが生み出す心理的な影響をテーマにしています。『婦人朝日』に掲載されたのち、1959年に短編集『危険な斜面』にも収められ、多くの読者に親しまれてきました。

あらすじ

物語の中心は、竹沢幸子という女性とその夫、英二との関係です。英二は長期間療養所に入っており、回復の見込みが薄いことから、幸子は自宅での療養へ切り替える決断をします。夫の願いを尊重し、付添いの看護婦として坪川裕子を雇うことにします。裕子は経験豊富で、必要なお世話を疎かにすることはありませんでした。

しかし、幸子には仕事で忙しい日々の中、二階の夫のもとへ頻繁に足を運ぶ余裕がありません。そのため、裕子に任せられている安心感もありましたが、幸子は階段を上るたびに、不安を抱えるようになります。心の奥底から芽生えるのは、夫と看護婦の関係に対する疑念や恐怖でした。裕子がどれほど信頼できる人物であっても、幸子の心を支配するのは悶々とした不安であり、見えない圧力が彼女を追い詰めていきます。

人間関係の心理

松本清張はこの作品において、隔絶された空間にいる夫婦の心理的な葛藤を繊細に描き出しています。幸子の不安は、実際の状況と無関係なところから来ていることが明らかで、より深い心理描写を生んでいます。物語全体を通して、幸子の恐れは単なる嫉妬心にとどまらず、自己の存在や居場所の不確実さとも関わっています。このような描写は、読者に人間関係の奥深さを再認識させ、時には生々しい心理を感じさせるものです。

テレビドラマ化

『二階』は1965年と1977年に二度にわたってテレビドラマとして映像化されました。1965年版は関西テレビが制作し、フジテレビ系列で放映されました。この際、三國連太郎、佐々木すみ江、楠侑子といった実力派の俳優たちがキャストを務め、作品の深みを増す要因となりました。

1977年版は、TBS系列での放映が行われ、視聴率も高く、その後DVD化もされるなど、根強い人気を誇っています。この版では、竹沢幸子役に十朱幸代、英二役には山口崇が配役され、渡辺美佐子が看護婦の裕子を演じるなど、キャストの魅力が作品の魅力を一層引き立てました。

総括

松本清張の『二階』は、単なる短編小説にとどまらず、複数のメディアで息づき続ける普遍的なテーマを持っています。その心理的な描写は、今なお多くの人々に響き渡るもので、読者や視聴者に考察の余地を与えるのです。この作品を通じて、人間関係の微妙なバランスを見つめる機会を持つことは、私たち自身の心の在り様を考えるきっかけとなるでしょう。

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