二龍松

二龍松（にりゅうのまつ）

二龍松は、三河国（現在の愛知県東部）に伝わる変身譚です。この物語は、一対の松の木が童子に姿を変えるという、神秘的な出来事を描いています。

物語の概要

石川鴻斎の『夜窓鬼談』によると、三河国にある長興寺に、次のような伝承が残されています。

長興寺の門前に、一対の松の木が生えていました。この松は「二龍松」と呼ばれていました。ある時、この二龍松が二人の童子に姿を変え、寺の住職に硯と紙を求めました。住職がそれらを与えると、童子たちは大層喜び、漢詩のような文章を紙に走り書きしました。童子たちは、「これでこの寺に災いが降りかかることはないだろう」と言い残し、再び松の木に戻ったと言います。

残された書き付けは寺に大切に安置され、長らく人々の崇敬を集めました。この不思議な出来事は、寺を守る力を持つものとして、地元の人々に語り継がれてきました。

古典資料における記述

江戸時代前期の怪談本『古今百物語評判』にも、この二龍松の話が「参州加茂郡長興寺門前の松童子にばけたる事」として記述されています。この書物によると、松の木の童子たちが書いた文章は、以下の通りに記されています。


客路三川風露秋 袈裟一角事二勝遊一
二龍松樹千年寺 古殿苔深僧白頭


この漢詩のような文章は、二龍松の霊験を示すものとして、当時から人々を魅了していたと考えられます。

考察

二龍松の物語は、自然物である松の木が精霊や神性を帯びて現れるという、日本の古い信仰を反映しています。また、寺を守るという役割を持つ点も、地域の人々の信仰心と結びついていると考えられます。この物語は、怪談の要素を持ちながらも、自然への畏敬の念や、寺に対する信仰心を伝えるものとして、今日まで語り継がれています。

関連情報

この物語は、水木しげるの『愛蔵版 妖怪画談』でも「松の精霊」として紹介されています。

関連項目

化け銀杏の精
古椿の霊

参考文献

* 水木しげる『愛蔵版 妖怪画談』（岩波書店）

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