互恵性 (進化)

互恵性（ごけいせい）

進化生物学の分野で用いられる互恵性とは、将来的な関わりの見込みが、生物の協力行動や利他的な振る舞いが進化していくメカニズムを指します。単に一方的な利他行動とは異なり、相互の関係性の中で進化の有利さが生じる点に特徴があります。利害対立や報復の感情は、集団全体の利益を損なうため、自然選択の過程で淘汰されることも考えられます。

互恵性にはいくつかの種類があり、主に以下の3つが広く研究されています。

• - 直接的互恵性
• - 間接的互恵性
• - ネットワーク互恵性

直接的互恵性

直接的互恵性は、ロバート・トリヴァース氏によって、協力関係がどのように進化するかを説明するメカニズムとして提唱されました。これは、同じ個体同士が繰り返し相互作用する場合に注目します。進化ゲーム理論のモデルで考えると、プレイヤーは「協力」するか「裏切り」するかを選択できます。たとえ短期的に見れば相手を裏切る方が自己の利益になるように見えても、長期的に同じ相手と協力し合う戦略の方が最終的に有利になる可能性があります。直接的互恵性が協力行動を進化させるのは、同じ二者が再び出会って相互作用する確率が、協力にかかるコストとそこから得られる利益の比率を上回る場合に限られるとされます。

間接的互恵性

間接的互恵性の枠組みでは、集団内の異なる個体間でランダムな相互作用が生じ、必ずしも同じ相手と繰り返し出会う必要はありません。相互作用において、一方の個体は「与える側」、他方は「受け取る側」となります。与える側は協力（援助）するかどうかを決定します。この相互作用とその結果は、集団内の他のメンバーによって観察され、共有される可能性があります。個々の行動に対する他者からの評価、すなわち評判が、間接的互恵性による協力の進化を可能にする鍵となります。自然選択は、助けを求める側の評判が良いかどうかに基づいて、援助するかどうかを決める戦略を有利に働かせます。研究によると、一般的に、積極的に他者を助ける個体は、自分自身も他者から助けられやすくなる傾向が見られます。多くの状況で協力は有利に働きますが、協力的な社会は常に安定しているわけではありません。なぜなら、わずかな裏切り者が現れるだけで、築かれた協力関係のバランスが容易に崩されてしまう可能性があるからです。

間接的互恵性による協力が促進される条件は、誰かの評判を知る確率が、協力にかかるコストと得られる利益の比率を上回る場合であると理論的に示されています。ただし、個体が自身の評判を意図的に曖昧にしたり、他者に知られにくくする能力を進化させることで、評判が広まる確率が低下し、互恵性が阻害される可能性も指摘されています。

間接的互恵性の個々の行為は、その連鎖の方向によって上流と下流に分類されることがあります。

• - 上流互恵性: 助けてもらった個体が、その後に別の第三者を助ける行動をとるように促される場合を指します。例えば、AがBを助け、それを受けてBがCを助けるといった流れです。
• - 下流互恵性: 他者を助けた個体が、その後に第三者から助けてもらえる可能性が高くなる場合を指します。例えば、AがBを助けたことで、後にCがAを助ける可能性が高まるといった流れです。

ネットワーク互恵性

現実の生物集団や人間社会は、完全に均質に混ざり合っているわけではなく、地理的な近さや社会的なつながりといった構造を持っています。これにより、特定の個体同士が他の個体よりも頻繁に相互作用する傾向が見られます。このような構造が協力行動の進化に与える影響を捉えるアプローチの一つに、進化グラフ理論というものがあります。この理論では、個体をグラフの頂点として表現し、辺（エッジ）が誰と誰が相互作用するかを定めます。協力者は相互作用する相手（隣人）それぞれに一定のコストを払って便益を与えますが、裏切り者はコストを払わず、相手に便益も与えません。このようなモデルにおいて、ネットワーク構造が存在することで協力が優遇されることがあります。この協力が維持されるには、協力から得られる便益と負担するコストの比率が、集団内での平均的なつながりの数（平均次数）を上回る必要があるとされます。より詳細な最近の研究では、この比率が、協力者の周囲の平均的なつながりの数（最近接隣人の平均次数）を上回る必要があることが示されています。

社会動態における一般化された互恵性

進化生物学的な文脈とは別に、社会学や倫理学においては一般化された互恵性という概念も存在します。これは、直接的・即時的な見返りを期待せず、他者に善意を示すべきだという考え方を指します。これは人道的な振る舞いの内にある価値を重視し、ギブアンドテイクといった取引関係を超えたものです。

一般化された互恵性は、人々が互いに積極的に「与える」こと、そして集団としての「団結」を大切にする文化を育むよう促します。人々がこの考え方に基づいて行動する時、自らの行為に対する見返りを計算せず、コミュニティ全体の幸福を気遣う姿勢を示します。これは、見返りを前提とせず、個々人が互いに与え、共有し、助け合うことで成り立つ社会的なつながりを表現しています。このような利他的な関与は、親しい関係にとどまらず広がり、連鎖反応のように多くの人々の幸福を高めることにつながります。

したがって、一般化された互恵性は、結束の固いコミュニティを築く上で、利他的な貢献がいかに永続的な価値を持つかを示すものです。この考え方を取り入れることは、与えることそれ自体の揺るぎない価値と、互いに利益がもたらされるという自然な流れへの信頼に対する姿勢と言えます。

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