五十里武

五十里 武

（いかり たけし、1934年（昭和9年）5月15日 - 2004年（平成16年）10月20日）は、日本の社会運動家であり、後に政治家としても活躍した人物です。特に、茨城県鹿島町（現在の鹿嶋市）の地域社会において、その後の発展に繋がる重要な役割を果たしました。鹿島町長を経て、初代鹿嶋市の市長を務めました。

初期活動と社会運動への関与

富山県で生を受けた五十里武氏は、立命館大学法学部にて学びました。大学を卒業後、彼は日本の社会運動の渦中に身を置くことになります。

1950年代前半という、日本の戦後社会が大きな変革期を迎えていた頃、五十里氏は日本共産党の一員として活動していました。党の活動方針によっては武装闘争も辞さないという状況下で、彼は山村工作隊の一員として現場での活動に従事しました。しかし、この時期の経験の中で、彼は組織の論理と個人の尊厳との間で深い葛藤を抱くことになります。特に、組織活動の優先のために肉親である母親の死を隠蔽されたという事実は、彼にとって耐え難いものであり、党からの離脱を決意する決定的な要因となりました。

共産党を離れた五十里氏は、活動の場を茨城県に移します。そこで、地域に根ざした農民運動を主導していた山口武秀氏のもとで、組織者（オルグ）として活動を続けました。この経験は、後の地域政治家としての活動において、人々と向き合い、組織を動かす上での貴重な糧となったと考えられます。

行政官としての歩み

1962年、五十里氏は山口氏のもとを離れ、新たな道を選択します。彼は鹿島町役場に就職し、行政官としてのキャリアをスタートさせました。役場では、総務部長などの要職を歴任し、町の行政運営の枢要に携わりました。

この時期、茨城県では岩上二郎知事の強いリーダーシップのもと、鹿島臨海工業地帯の建設という国家的な一大プロジェクトが進行していました。五十里氏は、町役場の職員として、この広域開発に関わる業務に携わりました。地域の未来を大きく左右するこの事業への関与を通じて、彼は行政の果たすべき役割や、大規模プロジェクトの推進プロセスについて深く理解を深めたことでしょう。

政治家としての手腕

長年にわたる行政経験と地域での活動実績を背景に、五十里氏は直接的に地域を率いる政治の道へと進みます。

1990年4月8日に行われた鹿島町長選挙において、自治労などの支持を得て当選を果たしました。町長として、彼は地域の活性化、特にスポーツを通じた振興に積極的に取り組みます。この時期に具体化したプロサッカークラブ、鹿島アントラーズの設立構想に対して、五十里町長は賛同の意を示し、クラブの設立と地域への定着を後押ししました。アントラーズの存在は、その後の鹿嶋市の発展に不可欠な要素となります。

1995年、鹿島町と隣接する大野村が合併し、鹿嶋市が誕生しました。五十里氏は、この新しい市体の初代市長に就任しました。新市の名称を決定するにあたっては、当初「鹿島市」を希望していましたが、佐賀県に既に同名の鹿島市が存在していたことから、重複による混乱を避けるために「鹿嶋市」とすることを決断したという経緯があります。初代市長として、合併後の混乱を収拾し、新しい市政体制を確立するために尽力しました。

しかし、初代市長としての任期を全うすることなく、1998年4月23日に鹿嶋市長を退任しました。

社会運動の闘士として始まり、行政の現場で辣腕を振るい、そして地域のリーダーとして市政を担った五十里武氏の生涯は、激動の昭和・平成を生きた一人の人物の軌跡として記憶されています。

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