五来重

五来重（1908-1993）は、日本の民俗学を代表する学者の一人です。大谷大学名誉教授を務め、日本仏教史、特に仏教民俗学の分野で顕著な功績を残しました。

茨城県に生まれた五来は、東京帝国大学文学部印度哲学科を卒業後、高野山大学で助手を務めます。その後、歴史学への関心を深め京都帝国大学文学部史学科へ再入学、卒業論文では「中世における神仏習合思想の変遷と元寇の影響」をテーマに研究を行いました。

京都師範学校教諭、高野山大学助教授を経て、1955年に大谷大学文学部教授に就任。同大学を拠点に、仏教民俗学の研究と教育に尽力しました。1962年には文学博士号を取得し、1978年に定年退職、名誉教授となりました。1980年には勲三等瑞宝章を受章しています。

五来の研究は、柳田國男の民俗学に大きな影響を受けました。柳田の京都帝国大学での講義に感銘を受けた五来は、それまで思想史や教学史に偏りがちだった日本仏教研究に、民俗学の視点を積極的に導入しました。各地の庶民信仰や民俗信仰を対象に、綿密な現地調査と独自の史観に基づく考察を行い、数多くの重要な成果を発表しました。

その研究対象は、中世の庶民信仰から近世・現代の民俗信仰まで多岐に渡り、日本の地域宗教史、民衆宗教史に多大な貢献を果たしました。特に、庶民の信仰や生活文化に深く関わる実践的な研究姿勢は、後世の研究者たちに大きな影響を与えています。

五来は、山折哲雄によって柳田國男、折口信夫に続く日本民俗学の第三走者と評されています。これは、五来の研究が日本の民俗学の発展にどれほど貢献したかを物語っています。

代表的な著書には、『元興寺極楽房中世庶民信仰資料の研究』『吉野・熊野信仰の研究』『高野聖』『熊野詣 三山信仰と文化』『仏教と民俗 仏教民俗学入門』などがあります。これらは現在も民俗学研究において重要な文献として広く参照され、高く評価されています。

定年退職後も、「日本宗教民俗学研究所」を主宰し、多くの後進を育成しました。弟子には、高野山大学名誉教授の日野西眞定など、民俗学や仏教研究の第一線で活躍する研究者たちが数多く含まれています。

五来重の研究は、単なる学問的な成果にとどまらず、日本の文化や歴史、宗教に対する理解を深める上で貴重な貢献を果たしました。その業績は、現代においても民俗学、仏教研究、ひいては日本文化研究の基礎として高く評価され続けています。彼の残した膨大な著作は、現代の研究者たちにとって、今もなお重要な研究資料であり続けています。また、弟子たちを通して、彼の研究精神は現在も日本の民俗学研究に受け継がれています。

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