五箇山ぼべら

五箇山ぼべらとは

五箇山ぼべらは、富山県南砺市の五箇山地域で古くから栽培されているカボチャの固有品種です。この地域ではカボチャを古くから「ボブラ」（小谷地域では「ボビラ」とも）と呼んでおり、この呼び名はポルトガル語でカボチャやウリ類を指す「abóbora（アボーボラ）」に由来すると考えられています。五箇山地域にキリスト教宣教師が伝えた作物の一つがカボチャであった可能性を示唆しており、歴史的なつながりを感じさせます。また、かつてはこの「ボブラ」を丸い形のものと、表面に深いしわのある「菊ボブラ」に区別していました。「菊ボブラ」は皮が固く貯蔵性に優れていたことから、冬至に食すると健康（特に脳血管系の疾患予防）に良いという伝承がありました。

五箇山ぼべらの特徴

現代の五箇山ぼべらは、一般的にラグビーボールのような楕円形をしています。外皮は濃い緑色、果肉は鮮やかなオレンジ色をしています。一個あたりの重さは1.5kgから3.5kg程度です。この品種の大きな特徴として、比較的皮が柔らかいこと、そして強い甘みを持っていることが挙げられます。特に加熱すると、その甘みが一層際立ち、ねっとりとした濃厚な食感を楽しむことができます。

歴史と復活の道のり

古くから五箇山地域で栽培されてきたぼべらですが、品種改良が進む前のものは収穫量が少なく、大きさも不均一であるといった課題を抱えていました。このため、21世紀に入る頃には、ぼべらを栽培する農家はごくわずかになっていました。しかし、2004年（平成16年）に富山県が発行した「富山の伝統野菜」という冊子を作成するための調査が転機となります。この調査をきっかけに富山県野菜協会の職員がぼべらの存在を知り、以降、県の主導によって品種改良の取り組みが進められました。収量や品質の安定化が図られた結果、徐々に栽培が再び広まっていきました。

さらに、2013年（平成25年）に発足した「合掌の森再生協議会」が、「合掌の森プロジェクト」の一環としてぼべらのブランド化に着手しました。それまで「五箇山かぼちゃ」などと呼ばれて出荷されていたものを、正式に「五箇山ぼべら」という名称に統一し、地域ブランドとしての確立を目指すことになったのです。こうした取り組みにより、五箇山ぼべらは地域を代表する特産品の一つとして、再び注目を集めるようになりました。

伝統農法と栽培環境

五箇山ぼべらの栽培には、地域の伝統農法が活かされています。五箇山の象徴である合掌造り集落では、屋根の葺き替えが20年余りごとに行われますが、その際に取り替えられる使用済みの古茅が、ぼべら栽培における堆肥として活用されています。古茅を土壌にすき込むこの伝統的な方法は、豊かな土壌を作り出し、ぼべらの生育を支えています。

また、五箇山地域特有の山間部の気候も、ぼべらの品質に影響を与えています。朝夕の寒暖差が大きい環境が、ぼべらに深みのある味わいをもたらすと言われています。

栽培は通常、5月に種まきや苗の育成から始まり、畑の準備と並行して進められます。5月下旬には苗を畑に植え付け（定植）、6月頃には古茅を株元に敷く作業を行います。収穫は8月下旬から始まり、主に9月から11月にかけて出荷・販売されます。

昔ながらの利用法

古くは、ぼべらを鍋で煮て、米粉や蕎麦粉と混ぜ合わせて椀によそって食べるという独特な料理法があったと伝えられています。また、シンプルに塩だけで煮て食したり、収穫した種の利用法もありました。種を乾燥させた後、煎って細かく砕いたものを「こうばし」と呼び、炒りごまのように香ばしさを加える調味料として使われていたとのことです。

現在の流通と商品化

現在、五箇山ぼべらは主に五箇山地域の道の駅や直売所で手に入れることができます。ただし、生のぼべらは日持ちしないという特性があるため、道の駅では日持ちする加工品（例：ぼべらもなか、干しぼべら）を中心に扱い、直売所では生のぼべらと加工品の両方が販売される傾向があります。近年では、富山県内や石川県内の一部大型スーパーマーケットでも、年に1～2回程度ですが取り扱われる機会が増えています。

生のぼべらが長持ちしないという課題は、過去には収穫後の廃棄ロスが多い要因となっていました。しかし、2010年代後半からは、ぼべらをペースト状にして冷凍保存する技術が確立されたことで、この課題が解決され、様々な加工品への展開が可能になりました。現在では、ロールケーキ、モンブラン、ソフトクリーム、プリン、もなかといったスイーツ類から、カレーやうどんなどの食事系まで、多岐にわたる商品が生み出されています。中でも、近年開発された「干しぼべら」は、長期保存が可能でありながら、ぼべら本来の濃厚な甘みと風味が凝縮されているとして注目を集めています。

五箇山ぼべらは、地域の歴史、文化、伝統的な農法と、現代の品種改良や加工技術が融合して育まれた、地域の誇るべき伝統野菜です。その独特な味わいは、五箇山の自然と人々の営みが生み出す恵みと言えるでしょう。

もう一度検索