五葉マツ類発疹さび病

五葉マツ類発疹さび病

五葉マツ類発疹さび病（英名：white pine blister rust）は、マツ属の樹木に発生する深刻な感染症です。特に、抵抗力を持たないアメリカ大陸の五葉マツ類に対して壊滅的な被害をもたらし、枯死を引き起こすこともあります。クリ胴枯病、ニレ立枯病と並び、世界の三大樹木病害として知られています。

マツの分類と五葉マツ

マツは、葉の数が五葉のものと二葉のものに大別されます。アカマツやクロマツが二葉マツ、ゴヨウマツやチョウセンゴヨウが五葉マツの代表例です。五葉マツは、分類学上Strobus亜属に属するものが多く、葉の付け根の鞘が取れやすく、球果が柔らかいといった特徴があります。日本産の五葉マツはいずれもこの亜属に含まれます。

病名について

「五葉マツ類発疹さび病」という和名は、英名white pine blister rustを意訳したものです。white pineは、Strobus亜属のマツの木材が白いことに由来し、アメリカではこの亜属の一般的な総称として使われています。ストローブマツ（Pinus strobus）に多く発生することから、ストローブマツ発疹さび病とも呼ばれます。

症状

感染の初期症状は、葉に現れる不明瞭なオレンジ色の斑点です。その後、斑点の近くの若枝が紡錘形に腫れ上がり、瘤が形成されます。瘤が成長すると、その先の枝は枯死し、葉は赤く変色します。瘤の周囲の樹皮が発疹状に隆起し、オレンジ色の発疹模様が現れるのが特徴です。この発疹は病原菌の柄子殻で、内部に胞子を蓄えています。抵抗性の低いマツは、幹まで侵され枯死することがあります。

原因

病原菌は、サビキンの一種であるCronartium ribicolaです。サビキンは、多くの種類が存在し、植物に様々な病気を引き起こします。Cronartium ribicolaは、スグリ属やシオガマギク属の植物を中間宿主として利用し、生活環を全うします。マツの枝や幹に生じた胞子が中間宿主に感染し、そこで増殖したサビキンが再びマツに感染を繰り返します。

類縁の病原菌

Cronartium属の菌には、五葉マツ類発疹さび病以外にも、マツ類の枝や幹に瘤を形成し、成長阻害や枯死を引き起こすものが存在します。Cronartium quercumやC. fusiformなどがその例で、それぞれアカマツやクロマツ、テーダマツなどに被害を与えます。

中間宿主

五葉マツ類発疹さび病のサビキンは、スグリ属やシオガマギク属の植物を中間宿主として利用します。中間宿主となる植物は、マツとは異なり枯死することはありませんが、感染・発病への抵抗性には違いが見られます。アメリカでは、Ribes bracteosumやR. visscossimumが特に弱いとされています。

発病要因

一般的に、シベリアやヨーロッパに分布するマツは抵抗性があり、アメリカ産のマツは感受性が高い傾向があります。抵抗性種では周皮の形成などの抵抗反応が起きますが、感受性種では反応が鈍いことが知られています。

対策

枝打ち

病変部が細い枝先に見られる場合は、剪定によって罹病枝を除去することで、病気の拡大を防ぐことができます。太い幹が侵された場合は、対策が困難になります。

中間宿主の除去

中間宿主となるスグリ類を除去することで、感染拡大を防ぐという方法です。しかし、スグリ類は根が残ると再生しやすく、鳥によって種子が運ばれることもあるため、効果は限定的です。

抵抗性品種の植栽・開発

抵抗性を持つマツの品種を植栽・開発することが、長期的な対策として重要です。

歴史

18世紀初頭、ヨーロッパでストローブマツの造林が盛んになった際、シベリア産の病原菌が侵入し、ヨーロッパ全土に広がりました。その後、アメリカにストローブマツの苗木が輸入された際に、病原菌も持ち込まれ、アメリカ大陸でも蔓延するようになりました。

関連項目

世界の樹木三大（四大）病害
クリ胴枯病
ニレ立枯病
マツ材線虫病
マツ属
サビキン

外部リンク

森林生物データベース00173五葉松類発疹さび病―森林総合研究所
White pine blister rust―American Phytopathopalogical Society
* White Pine Blister Rust and its treatment to high elevation white pines. 高地での病気の扱いについて～合衆国林野局～

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