井上将憲

井上 将憲（いのうえ まさのり）氏は、1972年5月1日に千葉県八千代市で生まれた日本の元アスリートです。彼は陸上競技の選手としてキャリアをスタートさせ、後にボブスレー選手としても国際舞台で活躍するという、類まれな経歴を持っています。

スポーツの道を志した井上氏は、東海大学付属浦安高等学校から順天堂大学へと進学します。大学時代は陸上競技、特に110メートルハードルを専門とし、その才能を開花させました。日本学生陸上競技対校選手権大会の110メートルハードルで見事優勝するなど、学生トップレベルの選手としてその名を知られるようになります。

大学卒業後、井上氏は実業団チームであるミズノトラッククラブに所属。プロアスリートとしての活動を続けました。この期間には、ユニバーシアード福岡大会で日本代表に選出され、世界の舞台を経験。また、日本選手権でも2位に入るなど、国内ハードル界のトップ選手としての地位を確固たるものとしました。

1997年、井上氏は母校である東海大学付属浦安高等学校に非常勤講師として採用されます。指導者としての道を歩み始めながらも、自身の競技活動も継続。同年には、これまであと一歩届かなかった日本選手権の110メートルハードルで念願の初優勝を飾るなど、競技者としてさらなる高みへ到達しました。

同年6月、井上氏のキャリアに大きな転機が訪れます。陸上競技で培った瞬発力や身体能力を活かせる新たな挑戦として、ボブスレー競技を始めたのです。夏季競技のトップ選手が冬季競技に挑戦すること自体珍しいことですが、井上氏の適応能力は群を抜いていました。ボブスレー開始からわずか8か月という驚異的な短期間の練習だけで、1998年に地元日本で開催される長野オリンピックのボブスレー2人乗り日本代表に選出されたのです。これは、それまでの日本のボブスレー界においては前例のないスピードでの代表入りであり、大きな話題となりました。

長野オリンピック後、井上氏は非常勤講師を退職し、立教大学での講師職を経て、1999年に東雪工業株式会社に入社しました。企業に籍を置きながらも、彼はハードル競技とボブスレーという二つの全く異なる競技を並行して続けるという挑戦を選びました。この両立は容易ではなかったはずですが、井上氏はそれぞれの競技で高いレベルを維持します。

陸上競技では、2001年の全日本実業団対抗陸上競技選手権大会の110メートルハードルで優勝するなど、実業団選手としても日本のトップに立ち続けました。一方、ボブスレーにおいても着実に実力をつけ、2002年ソルトレークシティオリンピックでは、2人乗りと4人乗りの両種目で日本代表に選出され、2度目のオリンピック出場を果たします。さらに、ボブスレーワールドカップにも出場するなど、国際的なボブスレー選手としての地位も確立しました。

引退後は、その豊富な競技経験と指導経験を活かし、スポーツ界への貢献を続けています。現在は、NPO法人クレンサスポーツアカデミーにて、CSAテクニカルスタッフとして活動。次世代のアスリート育成やスポーツ振興に向けた取り組みに尽力しており、陸上競技とボブスレーという二つの道を極めた経験は、指導の現場でも貴重な財産となっています。井上将憲氏は、一つの競技にとどまらず、新たな分野へ果敢に挑戦し、成功を収めた異色のキャリアを持つアスリートとして、多くの人々に勇気とインスピレーションを与えています。

もう一度検索