井上忠佳

井上 忠佳（いのうえ ただよし）氏は、1944年に愛知県名古屋市で生まれた、日本の著名なランドスケープアーキテクトであり都市計画家です。技術士および登録ランドスケープアーキテクト（RLA）の資格を有し、長年にわたり公園緑地や都市の景観形成分野に貢献してきました。

東京農業大学農学部造園学科で学び、在学中にミシガン州立大学社会学部ランドスケープ・アーキテクチュア学科に留学し、国際的な視野を広げました。卒業後は旧建設省に入省し、インハウスのランドスケープアーキテクトとして行政および研究に従事。都市公園の整備や運営、都市緑化、都市計画、古都保存、広域緑地行政など、多岐にわたる業務に携わりました。

特に、土木研究所（現在の国土技術政策総合研究所）緑化研究室長時代には、緑化技術や景観整備に関する重要な研究を推進しました。また、1987年から1988年にかけて開催された国際レジャー博覧会（オーストラリア・ブリスベン）では日本政府館副館長を務め、日本庭園「遊翠園」の管理運営および恒久保存に深く関与しました。

建設省を退職後、日本造園コンサルタント協会の専務理事に就任。バブル崩壊後の造園コンサルタント業界のビジョン策定や、協会の名称変更（ランドスケープコンサルタンツ協会）に貢献しました。さらに、ランドスケープアーキテクトの職能確立に不可欠な登録ランドスケープアーキテクト（RLA）資格制度の立ち上げに向けた業務を強力に推進しました。その後は株式会社創建の取締役副社長としても活動しました。

井上氏は、思想面においても重要な役割を果たしています。1971年に出版されたイアン・マクハーグらの著書「Design With Nature」で提唱された、エコロジカル・プランニングの理念を日本に紹介した先駆者の一人です。蓑茂寿太郎氏らとともに同人誌を発行し、自然のプロセスに基づいた計画手法の普及に努めました。

その活動は業界内に留まらず、社会活動や教育分野にも広く及びます。花と緑と健康のまちづくりフォーラム理事、花緑元気研究会会長、日本都市計画家協会理事を歴任し、都市の緑化推進やまちづくりに貢献。東京農業大学地域環境科学部造園科学科では非常勤講師として後進の指導にあたりました。また、日本造園学会中部支部長や、CBD・COP10のサイドイベントであるURIBIO2010（都市における生物多様性とデザイン国際会議）の共同議長を務めるなど、学会活動や国際会議においても主導的な役割を担いました。東日本大震災からの復興支援にも取り組み、福島県新地町の震災復興プロジェクトに参加しています。

これらの長年にわたる功績が認められ、2005年には第27回北村賞（日本公園緑地協会）を受賞しました。

著作活動も精力的に行い、『工夫とアイデアでのりきる がんばらないガーデニング』といった単著のほか、『都市緑化による都市景観形成事例集』、『改訂版 造園施工管理』、『人と自然にやさしいエンジニアリング』、『日本の街を美しくする―法制度・技術・職能を問いなおす』など、数多くの共著や技術基準、報告書の編纂に中心的な立場で関わっています。また、「造園空間におけるEdgeの意義」（東京都公園協会奨励賞受賞）、「公共事業による本格的日本庭園整備の技術的課題」、「大規模公園マネージメントの前提としての利用者分析調査の意義と課題」など、専門性の高いテーマで多数の論文を発表しており、その研究成果は土木研究所の研究資料としても多くまとめられています。

井上忠佳氏は、行政官、研究者、業界団体役員、民間企業役員、教育者、社会活動家という多様な立場で、日本のランドスケープアーキテクチュアおよび都市計画の発展に多大な足跡を残しています。

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