井上正就

井上正就の生涯と業績

井上正就（いのうえ まさなり）は、1577年に遠江国横須賀で生まれた武将で、江戸幕府の老中としても知られています。彼の父は徳川氏の家臣、井上清秀であり、母は徳川秀忠の乳母でした。このため、正就は若いうちから秀忠に仕え、彼の信任を得る存在となりました。

大名としての地位

正就は慶長20年（1615年）に小姓組の番頭に任命され、その時期には大坂夏の陣にも参加しています。彼の武将としての才能はこの頃から発揮され、元和8年（1622年）には5万2,500石を与えられて横須賀藩の初代藩主となります。この地位を得たことで、彼は江戸幕府の老中としても活動を始めました。

ただし、彼の人生は常に順風満帆ではありませんでした。ある時、正就の嫡子・正利と大阪町奉行の娘との縁談が進行中でしたが、3代将軍・徳川家光の乳母であった春日局が介入し、別の縁組を持ちかけました。正就は春日局の提案を受け入れ、直時との縁組が破談となりました。

武士の悲劇

この行動が元で、豊島信満という幕府目付の怒りを買うことになります。信満は仲人としての気持ちが傷つけられ、寛永5年（1628年）のある日、正就に対して「武士に二言は無い」と叫びながら、脇差で襲いかかりました。この瞬間に正就は致命傷を負い、恨みを抱いた信満も自らの腹を刺すという結末を迎えました。この事件の結果、正就と信満、そしてその場に居合わせた番士の青木義精の三名が命を落としました。

正就の死後

井上家は大きな処罰を受けることは無く、正利が家督を相続しています。一方、豊島家には信満の切腹という処分が下されましたが、他の一族には波及しなかったのです。事件の責任を感じた島田直時は自らに厳しい制裁を課す形で自害しました。

正就の墓所は静岡県掛川市の本源寺にあり、これは正利が建立したものです。また、正就の次男、井上正義は旗本として5千石を領することになり、その子孫も続いています。

東照宮御遺訓

井上正就は、徳川家康から聞いた御遺訓の一部を伝えるという重要な役割も果たしました。江戸時代に成立したとされる「東照宮御遺訓」は、彼が将軍秀忠の使者として駿府城で家康から聞き取った話をもとに、松永道斎が記録したものです。この遺訓は後の時代において、徳川家の存在意義を探るための貴重な資料となっています。

井上家の系譜

井上正就の系譜には、長男の正利や次男の正義が名を連ねており、彼たちはそれぞれ武士として家業を継続しました。正就の妻は市川孫左衛門の娘であり、子女は多くの著名な武将と結婚しています。このように、井上家は江戸時代を通じて名家としての地位を維持し続けました。

文化的影響

井上正就は、2000年のNHK大河ドラマ『葵 徳川三代』や松本清張の小説『破談変異』など、現代においてもさまざまな文化作品で取り上げられています。彼の業績や背負った運命は、今後も多くの人々に語り継がれていくことでしょう。

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