井上洋治

井上洋治

井上洋治（いのうえ ようじ、1927年3月28日 - 2014年3月8日）は、日本のカトリック教会の司祭であり、著述家としても知られています。神奈川県出身で、日本の土壌に根差したキリスト教のあり方を模索し、独自の思想を展開しました。

生涯

1927年、井上洋治は神奈川県津久井郡串川村（現在の相模原市緑区）で生まれました。幼少期は虚弱体質で、死への恐怖を抱く経験をしました。府立四中、旧制東京高等学校を経て東京工業大学に進学しますが、ベルクソンの哲学書に触れたことをきっかけにニヒリズムから解放され、哲学を志すようになり東京工業大学を中退。

1947年、東京大学文学部西洋哲学科に進学。修道女となった姉の影響や、小さき花のテレジアの『自叙伝』に感銘を受け、キリスト教に入信。洗礼を受け、「十字架のヨハネ」という洗礼名を授かります。

1950年に東京大学を卒業後、フランスのカルメル修道会に入会。遠藤周作との出会いもこの頃でした。厳しい修行生活を送る中で、日本の人々に福音を伝えたいという思いを抱き、1957年にカルメル会を退会し帰国。

帰国後は東京教区の神学生として学び、1960年に司祭に叙階されます。カトリック世田谷教会での助任司祭を経て、豊田教会主任司祭、東京カトリック神学院での養成担当などを歴任しました。

思想と活動

井上洋治は、キリスト教を日本の文化や精神に適合させることを追求しました。その思想は著書『日本とイエスの顔』に結実し、多くの読者に影響を与えました。遠藤周作もその一人であり、井上の思想に共鳴し、自身の作品にも影響を受けました。

1986年には、京都知恩院での講演を機に、「風の家」を設立。機関誌『風』の発行や、講演会、勉強会などを通して、日本の文化に根ざしたキリスト教のあり方を提唱しました。

1999年頃からは、「南無アッバ」という独自の祈りを始めました。「アッバ」とは、イエスが神を呼ぶ際に用いたアラム語で「お父さん」という意味です。井上は、日本人の心の奥底にある仏教的な感性を生かしつつ、イエスが伝えた神への親愛の情を表現しようとしました。

2014年3月8日、脳出血のため86歳で死去。葬儀ミサは東京カテドラル聖マリア大聖堂で執り行われ、多くの人々が参列しました。

人物

井上洋治は、温厚で謙虚な人柄であり、多くの人に慕われました。遠藤周作をはじめ、三浦朱門、矢代静一、瀬戸内寂聴、高橋たか子など、多くの文化人と親交がありました。

「風の家」

1986年に井上洋治が設立した「風の家」は、日本の文化に根ざしたキリスト教を模索する拠点となりました。機関誌『風』の発行、講演会、勉強会などを通して、キリスト教の新たな可能性を探りました。井上神父の没後も、山根道公や平田栄一らによって活動が引き継がれています。

南無アッバ

「南無アッバ」は、井上洋治が提唱した祈りです。「南無」は仏教で帰依を意味する言葉であり、「アッバ」はイエスが神を呼ぶ際に用いたアラム語です。この祈りを通して、井上は、日本人の心の奥底にある仏教的な感性を生かしつつ、イエスが伝えた神への親愛の情を表現しようとしました。

著書

井上洋治は、多数の著書を著しました。代表的なものとして、『日本とイエスの顔』、『イエスのまなざし 日本人とキリスト教』、『南無の心に生きる』などがあります。これらの著書を通して、井上は、日本の文化に根ざしたキリスト教のあり方を提唱し、多くの読者に影響を与えました。

『日本とイエスの顔』 北洋社 1976
『イエスのまなざし 日本人とキリスト教』 日本基督教団出版局 1981
『南無の心に生きる』 筑摩書房 2003

関連項目

インカルチュレーション

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