井上淳一

井上 淳一

井上 淳一（いのうえ じゅんいち）は、1965年7月12日に愛知県犬山市で生まれた日本の映画監督であり、脚本家です。社会的なテーマを扱う作品で知られ、映画界におけるそのキャリアは、伝説的な映画監督である若松孝二との出会いから始まりました。

若松プロダクションから映画界へ

愛知県犬山市で少年時代を過ごした井上氏は、地元の中学校、高等学校を卒業後、映画の道を志します。特に高校時代から若松孝二の作品に強い関心を抱き、若松プロダクションへの入社を熱望していました。浪人時代には、名古屋市のミニシアターであるシネマスコーレに足繁く通い、映画漬けの日々を送ります。ある時、シネマスコーレを訪れた若松孝二の舞台挨拶に接し、その場で帰京しようとする若松を追いかけ、衝動的に新幹線に飛び乗ったという逸話は、彼の映画への強い情熱を示すものです。

早稲田大学第二文学部へ進学すると同時に、念願だった若松プロダクションに入所。若松監督のもとで助監督として経験を積み、映画制作の基礎を学びました。そして1990年、『パンツの穴 ムケそでムケないイチゴたち』の一篇「彼女の本当が知りたくて」で監督デビューを果たします。長編作品としては、2013年にわずか1,200万円の低予算と10日間の撮影期間で完成させた『戦争と一人の女』が初めてとなります。

社会派としての眼差しと活動

井上氏の作品は、しばしば社会的な問題や歴史的な出来事に深く切り込み、「社会派」と評されています。2019年には、当時の政権下で議論が進められた憲法改正への問題意識に基づき、ドキュメンタリー映画『誰がために憲法はある』を監督しました。これは、社会の動きに対する映画人の応答としての彼のスタンスを示しています。

また、2020年以降の新型コロナウイルスのパンデミックは、多くのミニシアターを経営難に追い込みました。この危機的状況に対し、井上氏は荒井晴彦、森達也、白石和彌といった他の映画人たちと共に、ミニシアターを支援するための有志の集まり「勝手にしゃべりやがれ!」を立ち上げました。彼らは全国各地のミニシアターを訪れてトークショーなどを開催し、映画文化の灯を守るための活動を展開。この活動でのトーク内容は、2021年6月に小学館から新書『映画評論家への逆襲』として出版され、話題となりました。

近年の評価と活躍

井上淳一氏のキャリアは、近年特に高い評価を受けています。2023年に公開された映画『福田村事件』では、関東大震災時の史実を基にした重厚なテーマに取り組み、その製作手腕が評価され、2024年2月にエランドール賞のプロデューサー賞 奨励賞を受賞しました。

さらに、師である若松孝二の足跡を描いた作品の続編となる『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』（2024年公開）では、監督と脚本を担当。この作品は高い評価を受け、2025年5月には第34回日本映画プロフェッショナル大賞において、井上氏自身が監督賞を受賞したほか、作品自体も作品賞に輝きました。

脚本家としても多数の作品を手がけており、『止められるか、俺たちを』や『REVOLUTION+1』、『福田村事件』など、そのフィルモグラフィーは多岐にわたります。

井上淳一は、若松イズムを受け継ぎながらも自身の社会派としての視点を持ち、困難な状況にある映画文化を守る活動にも積極的に関わるなど、多角的な活動を通じて日本の映画界に貢献し続けています。

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