井戸尻遺跡

井戸尻遺跡：縄文文化が息づく場所

長野県諏訪郡富士見町に位置する井戸尻遺跡は、縄文時代中期を中心とした集落遺跡です。八ヶ岳南麓の標高800～1000mの尾根や台地に広がり、豊富な湧水が湧き出る地形が特徴です。この水に恵まれた環境が、縄文人の集落形成を促したと考えられています。

立地と歴史的景観

井戸尻遺跡を含む八ヶ岳南麓一帯は、縄文時代中期に集落が集中しました。特に、立場川から東の鹿ノ沢周辺にかけて、「井戸尻遺跡群」と呼ばれる遺跡群が形成されました。井戸尻遺跡はその中心的な存在です。

出土遺物

井戸尻遺跡からは、縄文時代中期中葉の土器が多数出土しており、その様式から「藤内式」や「井戸尻式」と呼ばれています。これらの土器は、抽象的な文様が描かれた巨大な深鉢が特徴で、中には動物や人の頭を模したと考えられる文様も見られます。住居跡からは、完形の土器が12個も出土しており、その多くが煮沸用、一部は貯蔵用として使われていたと考えられています。

また、石器も多数出土しており、凹石や打製石斧、石皿などが中心です。これらの石器は、木の実を加工したり、土を掘り起こす際に使われたと考えられています。特に、打製石斧は、雑木林の伐採や根茎の採取に使用されたと考えられています。

藤内遺跡から出土した半人半蛙文有孔鍔付土器を含む土器、土製品、石器は「長野県藤内遺跡出土品」として国の重要文化財に指定されています。

国の史跡・県宝の指定と縄文農耕論

戦後、この地域では林野の開拓が行われ、その過程で多くの土器や石器が発見されました。1953年には、考古学者宮坂英弌の指導のもと藤内遺跡の発掘が行われ、1958年には井戸尻遺跡の発掘調査が開始されました。

これらの発掘調査の結果、1966年に井戸尻遺跡は国の史跡に指定され、周辺は「井戸尻史跡公園」として整備されました。また、1975年には、曽利遺跡から出土した一括土器が長野県宝に指定されています。特に、「水煙渦巻文深鉢」は、海外でも展示されたり、郵便はがきの意匠に採用されたりと、高い評価を受けています。

考古学者藤森栄一は、井戸尻遺跡などの研究から、縄文時代には狩猟採集だけでなく、植物資源を活用した原始的な農耕が行われていたという「縄文農耕」論を提唱しました。これは当時の縄文文化に対する新たな視点を提供するものでした。

井戸尻考古館・富士見町歴史民俗資料館

現在、井戸尻史跡公園内には井戸尻考古館があり、出土品が展示されています。考古館では、特殊メガネを使った3D解説で縄文土器や人々の暮らしを体験できます。また、野外には縄文住居が復元されており、甲斐駒ヶ岳や富士山などの雄大な景色も楽しめます。

隣接する富士見町歴史民俗資料館では、明治・大正期の農具や生活用品が展示されており、当時の人々の暮らしぶりを垣間見ることができます。また、アニメーション監督の宮崎駿が描いた、縄文時代の八ヶ岳山麓の原画も展示されています。

主な出土品

水煙渦巻文深鉢 （長野県宝）
神人交会文深鉢
蛇文装飾深鉢
四方眉月文深鉢

アクセス

小淵沢ICから車で15分
JR中央本線信濃境駅から徒歩15分

関連情報

井戸尻考古館
開館時間：午前9時～午後5時
休館日：月曜日、祝日の翌日、年末年始
公式サイトやSNSで最新情報を確認してください。
富士見町歴史民俗資料館
井戸尻考古館との共通入場券

井戸尻遺跡は、縄文時代の人々の生活や文化を今に伝える貴重な場所です。ぜひ一度訪れて、古代のロマンを感じてみてください。

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