井手薫

井手薫：台湾建築に足跡を残した建築家

井手薫（いで かおる、1879年2月6日 - 1944年5月11日）は、明治から昭和にかけて活躍した日本の建築家です。特に日本統治時代の台湾において、重要な建築物を数多く手がけ、台湾の近代建築の発展に大きく貢献しました。

生い立ちと教育

井手薫は、1879年に美濃国岐阜（現在の岐阜県）に生まれました。父は橘曙覧の長男である井手今滋で、教育者として山梨県や新潟県の師範学校長、岐阜県の郡長などを歴任しました。薫は、第一高等学校を経て、1906年に東京帝国大学建築科を卒業しました。大学では、岡田信一郎、本野精吾、倉田謙らと同期でした。

建築家としてのキャリア

大学卒業後、井手薫は辰野金吾が率いる辰野・葛西建築事務所に入所し、建築設計の実務経験を積みました。1909年には陸軍に入隊し、工兵少尉に任官されました。1911年、井手薫は台湾総督府に技師として赴任します。これは、かつて薫が在籍した辰野建築事務所の辰野金吾が、森山松之助からの依頼を受けて井手を推薦したことによるものでした。台湾に到着後、台湾総督府庁舎（現在の総統府）の工事主任として建設事業に携わりました。この庁舎は1912年に着工し、1919年に完成しています。

1919年、井手薫は民政部土木局営繕課長事務取扱となり、その後1年間欧米各国へ出張し、建築視察を行いました。1923年には民政部土木局営繕課長に正式に就任し、台湾総督府史料編纂委員や市区計画委員などの要職も歴任しました。1929年には総督官房営繕課長および台湾建築学会会長に就任し、台湾の建築界を牽引しました。1940年7月、井手薫は台湾総督府を依願免官となりました。

主な作品

井手薫は、台湾において数多くの重要な建築物を設計しました。以下に代表的な作品を挙げます。

日本基督教団台北幸町教会（現・済南基督長老教会、1916年）：赤レンガ造りの美しい教会建築です。
建功神社（現・南海学園国立教育資料館、1928年）：日本統治時代の神社建築の様式を今に伝えています。
台北高等学校講堂（現・国立台湾師範大学禮堂、1929年）：優美なデザインが特徴的な講堂です。
台湾教育会館（現・二二八国家記念館、1931年）：台湾における教育振興の拠点として建設されました。
台湾総督府高等法院（現・司法大廈、1934年）：重厚な外観が印象的な裁判所建築です。
台北公会堂（現・台北中山堂、1936年）：大規模な集会施設として、現在も利用されています。
* 台北市役所（現・行政院、1940年）：近代的なオフィスビルとして建設されました。

これらの建築物は、現在も台湾各地に現存しており、その多くが歴史的建造物として保存されています。

台湾建築界への影響

井手薫の設計した建築物は、そのデザインや建築技術において、当時の台湾建築界に大きな影響を与えました。彼は、西洋の建築様式と日本の伝統的な建築様式を融合させ、台湾の風土に合った独自の建築様式を確立しました。彼の設計理念と建築に対する情熱は、多くの台湾人建築家に受け継がれ、その後の台湾建築の発展に大きく貢献しました。

井手薫は、台湾の近代建築の歴史において、忘れることのできない重要な人物です。

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