井狩正司

井狩正司（いかり まさし）は、1916年から2011年にかけて生きた日本の国文学者です。その生涯を通じて、日本の古典文学、特に平安時代の文学研究に多大な貢献をしました。彼は、旧制日本大学中学校（現在の日本大学第一高等学校）を1934年に卒業後、日本大学に進み、その後は教育者として、また研究者として、その才能を発揮しました。

井狩正司は、長年にわたり日本大学文理学部の教授を務め、後進の指導にも尽力しました。大学での教育活動の傍ら、古典文学の研究に情熱を注ぎ、数々の重要な著作を発表しました。また、隅田川神社の宮司も務めるなど、多方面で活躍しました。

彼の研究の中でも特筆すべきは、『平家物語』、『建礼門院右京大夫集』、そして『更級日記』に関するものです。『平家物語』については、類従抄本を研究し、そのテキストの成立過程や変遷を明らかにしようと試みました。

『建礼門院右京大夫集』に関しては、複数の校本を出版しています。1956年に東宝書房から『建礼門院右京大夫集』を出版したのを皮切りに、1959年には同じく東宝書房から『校本建礼門院右京大夫集』を、1967年には笠間書院から『校本建礼門院右京大夫集』を出版しました。1969年には、笠間書院から『建礼門院右京大夫集：校本及び総索引』を編著として刊行しており、この著作は、テキストの精密な校訂と詳細な索引によって、研究者にとって非常に価値のある資料となっています。

また、『更級日記』の研究においても、その功績は大きく、1968年に桜楓社（現・おうふう）から『更級日記』を、1970年には同じく桜楓社（現・おうふう）から『御物本更級日記』を出版しました。これらの著作を通じて、テキストの正確な解釈を提示し、作品の理解を深める上で重要な役割を果たしました。

井狩正司の研究は、単に原文を忠実に再現することにとどまらず、その時代背景や文学的な意味合いを深く掘り下げるものでした。彼の著作は、古典文学の研究において、基礎資料として、また研究の進展に不可欠な文献として、現在でも多くの研究者に参照されています。

彼は、日本大学文理学部で同僚であった鈴木知太郎や柳田忠則とも交流があり、共に日本の国文学研究の発展に尽力しました。井狩正司の業績は、日本の古典文学研究における重要な礎の一つであり、後世の研究者たちに大きな影響を与え続けています。

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