井野長割遺跡

井野長割遺跡（いのながわりいせき）

井野長割遺跡は、千葉県佐倉市ユーカリが丘に位置する縄文時代後期から晩期にかけての遺跡であり、2005年3月2日に国の史跡として指定されました。

概要

遺跡は、印旛沼に流れ込む手繰川の南岸、標高27メートルの台地上にあります。特徴的なのは、縄文時代に土砂を積み上げて作られた盛土遺構（マウンド）です。1969年、井野小学校の建設工事中に多数の縄文土器が出土したことがきっかけで、慶應義塾大学と佐倉市史編纂委員会による緊急調査が行われ、縄文後期から晩期の遺跡であることが確認されました。その後、2003年まで8次にわたる調査が行われ、遺跡の規模や構造が徐々に明らかになりました。

当遺跡の最大の特徴は、中央の窪地を取り囲むように環状に盛土が配置された「環状盛土遺構」です。盛土遺構自体は、青森県の三内丸山遺跡など他の縄文遺跡にも見られますが、井野長割遺跡のように良好な状態で保存されている例は稀です。また、盛土が古墳のように独立して存在している点も他に例がありません。遺跡の西半分は小学校建設の際に削平され、元の形を失っていますが、環状盛土で囲まれた遺跡全体は楕円形をしており、長径は約160メートル、中央の窪地の直径は約80メートルです。

盛土遺構

現存する盛土は5基ですが、失われたものを含めると少なくとも7基、多い場合は9基存在したと考えられています。遺跡の東半分には、楕円形の外郭を形成するマウンド1とマウンド2、そしてその内側に独立して存在するマウンド3とマウンド4があります。遺跡の西半分にあったマウンドは、小学校建設工事によって原形を留めていませんが、小学校敷地内の「自然観察園」に1基だけ残っており、マウンド5とされています。最も規模が大きいのは遺跡南端にあるマウンド1で、長さ60メートル、幅30メートル、高さ1.5メートルです。

1973年に行われたマウンド5の調査では、盛土の下から縄文後期の住居跡3軒が発見されました。盛土を構成する主要な土層はローム質の黄褐色土であり、この土が縄文後期の住居跡を覆っていることから、マウンドが作られたのは縄文後期以降であると考えられます。

環状盛土の東側では、縄文後期から晩期の土器片を大量に含む土によって谷が埋め立てられており、縄文時代に大規模な土木工事が行われたことがわかります。

遺構・遺物

土器は、盛土周辺から縄文後期中葉から晩期前葉のものが大量に出土しますが、中央の窪地からは晩期の土器の出土が少ないです。住居跡は、盛土の下層や外側からは見つかりますが、中央の窪地にはありません。これらのことから、中央の窪地は広場のような役割を果たし、その周囲に集落が形成されていたと考えられています。

2002年の第5次調査では、小学校の敷地内から貝塚が発見されました。貝の種類はヤマトシジミがほとんどで、その他にイノシシやシカなどの動物の骨、エイ、クロダイ、ボラなどの魚の骨、そしてウロコを取り除くための貝刃も出土しました。

2003年の第8次調査では、小学校の敷地内に調査区を設定しました。その結果、表土下20センチメートルまでは学校建設の影響で破壊されていましたが、その下には縄文時代の遺構が良好な状態で残っていることがわかりました。この調査によって、遺跡の北西から南東にかけて、遺構が存在しない帯状の空白地帯があることが判明しました。これは縄文時代の「道」の跡と考えられています。道を境に南側には多数の土壙があり、北側には柱穴と考えられるピット群がありました。土壙は墓穴または貯蔵穴とみられ、北側のピット群は住居跡とみられています。このことから、道によって住居群と墓群が配置されるという、当時の集落の構造を知ることができます。2001年の第4次調査では、遺跡の南端から南側の谷に通じる溝の跡が発見されており、これも道の跡と考えられています。南側の道の傍らには土壙群が見られ、埋甕もありました。

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