交差反応性

交差反応性（Cross-reactivity）とは

交差反応性とは、ある対象物（抗体や試薬など）が、本来反応すべき特定の標的（抗原や目的物質など）だけでなく、構造が類似しているなど関連性のある他の物質にも反応を示してしまう現象を指します。これは、医療診断検査における偽陽性の原因となるなど、様々な分野で影響を及ぼします。

特に免疫学の分野では、免疫システムが特定の抗原（病原体の一部や異物など）に対して応答する際に、それとは異なる別の抗原に対しても反応を示すことを指します。例えば、ある病原体に対する免疫応答が、別の病原体や、時には無害な物質（食物や花粉など）に含まれるタンパク質に対しても起こりうるのです。これがアレルギー症状の原因となることもあります。

免疫システムにおける交差反応

免疫システム、特に獲得免疫は、特定の抗原を認識して非常に特異的な応答（抗体の産生やT細胞の活性化など）を誘導します。しかし、自然界に存在する多くの抗原は、複数の異なる部分構造（エピトープ）を持つ複雑な分子です。ウイルスのような病原体に感染すると、その病原体を構成する様々な分子や、それぞれの分子上の個々のエピトープに対して、複数の免疫応答が同時に誘導されます。

この際、ある抗原のエピトープと構造が似ている別の抗原が存在すると、最初の抗原に対して作られた抗体や免疫細胞が、その類似抗原にも反応してしまうことがあります。これを免疫学的な交差反応と呼びます。

交差反応は、ある病原体への感染やワクチン接種によって獲得した免疫が、構造的に類似した別の病原体に対しても防御効果を発揮する場合（交差防御または交差免疫）には有益です。例えば、インフルエンザウイルスの異なる株間で交差反応が起こり、ある株に対する免疫が別の株への感染を防ぐ可能性があります。しかし、交差反応が必ずしも防御につながるわけではありません。場合によっては、ある病原体への免疫応答が、別の病原体に対する効果的な応答を妨げたり弱めたりすることもあります。

また、近縁ではない病原体間でも交差反応が起こりうる例として、インフルエンザウイルス特異的な免疫細胞が、C型肝炎ウイルスの抗原にも反応を示すといった現象も報告されています。

医療分野における交差反応性

医療検査、特に迅速診断検査などにおいて、交差反応性は結果の解釈に影響を与えます。最も一般的な影響は偽陽性です。検査で検出したい目的物質以外の物質が交差反応を起こすことで、実際には目的物質が存在しないのに陽性判定が出てしまうことがあります。例えば、ラテックス凝集試験で、測定対象の抗原とは異なる抗原が凝集を引き起こすケースなどがこれにあたります。

一方で、交差反応性が診断に役立つ場合もあります。エプスタイン・バール・ウイルス感染症の診断に用いられる異好性抗体試験では、ウイルスの抗原に特異的ではないものの、構造が類似した別の抗原に反応する抗体を利用して診断を行います。

ELISAやRIAといった免疫測定法やタンパク質結合アッセイでは、アッセイの信頼性を評価する上で交差反応性の確認が不可欠です。これは通常、目的物質と構造の似た関連物質に対するアッセイの反応性を測定し、パーセンテージで比較することで定量化されます。複数の関連物質について検量線を作成し、半数阻害濃度（IC50）などを比較することで、標的物質の測定を妨害する可能性のある物質を推定します。

医薬品開発においても、治療用抗体の臨床試験を開始する前には、ヒトの様々な組織に対する組織交差反応性アッセイを実施することが義務付けられています。これは、抗体が標的以外の組織にも反応し、予期せぬ副作用を引き起こす可能性を評価するためです。

薬物検査、特に尿を用いた免疫測定法に基づく検査でも、交差反応性は避けられません。特定の薬物や化学物質が、別のカテゴリーの薬物として誤って検出される偽陽性の原因となることがあります。

アレルギーと交差反応性

アレルギー反応においても、交差反応性は重要な役割を果たします。あるアレルゲン（アレルギーの原因となる物質）に対して感作された免疫システムが、構造が類似した別のアレルゲンに対しても反応してしまうことで発生します。これは、花粉と果物、あるいは異なる種類の食物の間でよく見られます。

例として、医療用手袋などに使われるラテックスにアレルギーを持つ人の約30～50%が、アボカド、バナナ、クリ、キウイなどの果物に対してもアレルギー症状を示すことが知られています。これは、これらの物質間に含まれる類似したタンパク質構造が原因と考えられています。逆に、これらの果物にアレルギーを持つ人の約11%にラテックスアレルギーが見られます。

また、ダニに刺された経験がある人が、後になって哺乳類の肉を食べるとアレルギー症状を起こすAlpha-galアレルギーや、クラゲに刺された経験が納豆アレルギーの原因となる例も、交差反応によるものと考えられています。

さらに、アレルギー検査において問題となるのが、炭水化物構造に起因する交差反応性（CCD; Cross-reactive Carbohydrate Determinants）です。これは、異なる植物などに存在する類似した糖鎖構造に対するIgE抗体が原因で、in vitroでのアレルギー検査で陽性反応を示すことがありますが、通常、これらのCCDは臨床的なアレルギー症状を引き起こさないため、検査結果が偽陽性と判断されるべきケースがあります。

まとめ

交差反応性は、単純な定義から始まり、免疫応答、医療検査、医薬品開発、そして身近なアレルギー反応に至るまで、広範な分野に関わる重要な現象です。その存在を理解することは、検査結果の正確な解釈や、アレルギーの原因究明、さらにはワクチンの開発や治療薬の安全性評価を適切に行う上で不可欠と言えます。

もう一度検索