交響曲第102番 (ハイドン)

交響曲第102番 変ロ長調 Hob. I:102

フランツ・ヨーゼフ・ハイドンが1794年、ロンドン滞在中に作曲した交響曲です。これは、ハイドンがイギリスへの二度の訪問中に生み出した、有名な12曲の『ロンドン交響曲』シリーズに含まれる一曲となります。

概要

この交響曲は、1795年2月2日にロンドンの国王劇場で行われた第1回オペラコンサートにおいて、プログラムの第2部の冒頭を飾る曲目として初演されました。

初演時のエピソードとして、興味深い逸話が伝えられています。ハイドンが聴衆の前に姿を現すと、その人気ゆえに多くの観客が彼を間近で見ようとステージの方へ押し寄せ、結果としてホールの中央部分に大きな空席が生まれました。その直後のこと、ホールの天井から吊るされていた巨大なシャンデリアが突然落下し、床に砕け散ったのです。しかし、幸運なことに、観客が避けて空席となっていた中央部への落下だったため、誰一人として怪我をすることはありませんでした。この出来事を目撃した人々からは、「奇跡だ！」という驚きの声が上がったと記録されています。

しかし、この劇的なシャンデリア落下の逸話は、現在ではハイドンの別の交響曲、第96番の初演時に起こった出来事として語られることが一般的です。本来第102番の初演時に起きたとされるこの「奇跡」のエピソードが、いつしか混同されてしまった理由については定かではありません。そのため、『奇蹟』という愛称は、現代では主に第96番に冠されています。それでも、一部の録音や楽譜の出版物においては、この第102番こそが真の『奇蹟』であるとして、この愛称を用いる例も見られます。

構成

この交響曲は伝統的な4楽章構成で書かれており、全曲の演奏時間は約25分程度です。

第1楽章 ラルゴ – ヴィヴァーチェ
変ロ長調、4分の4拍子から活発な2分の2拍子（アラ・ブレーヴェ）へ。ゆったりとした序奏を持つソナタ形式です。提示部と展開部に続き、ハイドンの後期交響曲に時折見られる特徴として、「疑似再現部」とも呼べるような、第1主題が展開部後半で一度顔を出す場面があります。これに続いて、正式な再現部へと移行します。

第2楽章 アダージョ
ヘ長調、4分の3拍子。穏やかな変奏曲形式です。提示された主題に対し、3つの変奏が続きます。この楽章では、独奏チェロがオブリガード（助奏）として活躍し、美しい旋律を奏でます。また、ハイドンはこの楽章において、生涯で初めて弱音器（ミュート）を装着したトランペットとティンパニを用いました。さらに、この楽章の音楽は、同時期に作曲されたハイドンの『ピアノ三重奏曲第26番 嬰ヘ短調』（Hob. XV:26）の第2楽章からも転用されています。

第3楽章 メヌエット：アレグロ
変ロ長調、4分の3拍子。スケルツォ的な性格も持つ、勢いのあるメヌエット楽章です。中間部であるトリオでは、オーボエとファゴットが優しく、レントラー風のなだらかな旋律を奏で、対比的な穏やかさをもたらします。

第4楽章 フィナーレ：プレスト
変ロ長調、活発な2分の2拍子（アラ・ブレーヴェ）。ロンドソナタ形式によって書かれています。再現部は比較的短くまとめられており、締めくくりのコーダは長めに取られています。提示部の終わり近くに現れる短い結び（コデッタ）の要素が、この長いコーダの最後に再び現れるのが特徴です。

この交響曲は、ハイドンの円熟期の傑作として、その構成の妙、旋律の美しさ、そして楽器法の工夫に満ちています。特に第2楽章の独奏チェロの活躍や、珍しい楽器の用法は特筆すべき点であり、また「奇跡」の逸話に彩られた背景も、この曲の魅力を一層深めています。

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